【短期連載エッセイ】
「スタッフ研修」「階段、階段昇降機」などで「そとでる」とご縁のある、東洋大学・高橋教授の「スウェーデンだより」です。連載は、いよいよ今回が最終回。どうぞ、ご一読ください。
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瑞典(スウェーデン)日記 06
東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科
高橋 良至
終着駅めぐり
最寄り駅から地下鉄レッドラインで街の中心部に行くときは「フルーエーゲン行き」に乗りますが、ある時、「フルーエーゲンとは、一体どんなところなのか?」という疑問が湧き上がってきて、一晩中眠れなくなってしまいました。これはもう、行ってみるしかありません。
「瑞典(スウェーデン)日記02」でもご紹介しましたが、ストックホルムの地下鉄は、ストールストックホルムス・ローカルトラフィク(SL)というストックホルム県の株式会社が公共交通全ての路線を運営していて、地下鉄、バス、路面電車、ライトレール、通勤電車、渡船まであります。私は 1ヶ月有効のパスを購入していたので、域内であればどこでも乗り降り自由です(1回券は80分有効)。 そこで、「全ての路線の終点を見てみよう。」と思い立ち、SL路線(航路)をぐるぐるまわって、完全乗車(乗船)を目指しました。
土日にポツポツ乗れば、帰国までには何とかなる……?
地下鉄はどこから……
ストックホルムの地下鉄は、レッド、グリーン、ブルーの3路線があります。
SLが地下鉄駅のアートを推進していることから、それぞれの駅に特徴的な装飾が施されていたり、美術作品が飾られていたりします。
例えば中心部にある、クングストレッドゴーデン駅(ブルーラインの始点)は、なんとも不思議な空間になっていますし、トーリッズプラン駅(グリーンラインの地上駅)には有名なキャラクターがひそんでいます。


不思議の国のような、クングストレッドゴーデン駅

ゲームのキャラクターがいる、トーリッズプラン駅
地下鉄ですが、郊外では地上を走ることが多いので、眺めの良い橋を渡ったり、森の中を走ったり、車窓の景色が楽しめます。
さて冒頭で書いた、気になっていたレッドラインの終点のひとつ、「フルーエーゲン」駅ですが、冬のある日、IKEA(イケア)に行く際に寄ってみました。フルーエーゲン駅は、幅広で直線の長いプラットホームを持つ高架駅でした。
なんとなく終点、フルーエーゲン駅
階段のとなりにエスカレータ、エレベータもあり、他の駅と同様に地上の改札からのアクセスが確保されています。確かにここから先に線路はないですが、終着駅の雰囲気はあまり感じられませんでした。しかし、とりあえず「全ての路線の終点を見てみよう。」という目標のひとつをクリアしました。
駅の周りはアパート(マンション)が立ち並んでいて、駅前にはバスターミナルもあります。ここからIKEAに行くにはバスに乗りかえるのですが、バスはなかなか来ず。
凍った歩道の上で震えながらバスを待ちました。まわりのスウェーデン人と一緒に我慢強く過ごした時間も、今は良い思い出です……。
船でも通勤できます
ストックホルムは大小の島々で構成されています。水路は、冬場には歩いて隣の島に行き来できるほど凍りつくところもありますが、暖かくなると、遊覧船、定期船、個人の所有する船などが行き交います。SLの航路は4つあり、そのうちの一つはストックホルム中心部にある王宮向かいの船着き場から、バルト海に抜ける水路を通って、1時間近くかけて北東にある島、リンデまで行きます。タイミングが良いと、途中までフィンランドやエストニア行きの大型客船と並走します。
大型客船は悠々と進みますが、SLの船は途中で船着き場に止まるので、大型客船の前後をちょろちょろと、抜きつ抜かれつ進みます。大型客船と分かれた後は、島々の間を縫って終点まで行きます。
小さな島にある小さな家、灯台、水辺にある家々に係留されている船、飛び込み台、ベンチで船をのんびり眺める人……、まるで絵本の世界のような風景です。
ポツンと浮かぶ小さい島に、立派な建物
乗船時は電車と同じでカードをタッチするだけですが、行き先を聞かれます。ベビーカーや自転車、車いすも乗船できるようになっています。
船内について少しご説明すると、トイレは車いす対応になっています。また、乗船時間が長い航路では、船内に売店があって、コーヒーやスナックを買うことができます。
2021年10月、ストックホルムに着いてから(「瑞典(スウェーデン)日記01」)アパートの契約開始までの1ヶ月は、友人の家にお世話になっていたのですが、大学までバスと地下鉄を乗り継いで、1時間半くらいかけて通いました。そのとき、経路の途中から渡船でも通勤できたので、船の時間に合うときは船を利用したこともあります。 船内でコーヒーを飲みながら、ゆったり水辺を眺めて通勤するのは最高にいい気分でした。冬のオフシーズンは、他社の定期航路もSLのチケットで乗れるようになるので、観光で訪れる際はおすすめです。
渡船は上甲板にも座席があります。
旧市街を後にする船。国旗が翻る。
そして完全乗車
終点めぐりは、週末に少しずつクリアしていきましたが、土日は日中でも2時間に1本しか走っていない路線があるため、「あと少しで終点!」と悔しい思いをすることも。
再チャレンジすることもありましたが、目標としていた地下鉄、路面電車、ライトレール、通勤電車の路線を「完全乗車」して、さらに「渡船の4航路を完全乗船して、バスも完全制覇」……とはいきませんでした。バスは路線がとても多いので、渡船とバス5路線(一桁番台の系統)のみを乗車して、そこまでとしました。
最後の最後に訪れたのは、バスの1系統の終点、エッシンゲン・トーリェット バス停で、ストーラ・エッシンゲン島という小さな島の中の、落ち着いたところでした。
最終的に、訪れた終点(始点)は55箇所になりました。2021年の冬に始めた試みですが、最後は2022年の真夏になっていました。これまで幾度となくストックホルムに来ていますが、ほとんどの終点は初めて訪れるところばかり。観光名所ではなく生活の場ということもあって、行く先々で、古い建物や自然に囲まれたスウェーデンの“豊かさ”を感じました。
最後に訪れた、バス1系統の終点、エッシンゲン・トーリェット バス停
おしまいに
「瑞典日記」は、これで終わりです。連載の間隔があいてしまった時もありましたが、スウェーデンでの暮らしや移動支援についてご紹介してみました。いかがでしたでしょうか。少しでもスウェーデン、日記の内容に興味を持って頂けたらありがたいです。
2023年夏には、コロナ禍も収まっているでしょうか。
ぜひまたスウェーデンを訪れて、北欧の風を感じてみたいと思っています。
それでは、また。
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