【短期連載エッセイ】
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瑞典(スウェーデン)日記 03
東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科
高橋 良至
短い春
ゴールデンウィーク前後には、ストックホルムでも桜が咲きます。中心部にある王立公園には日本から送られた八重桜が植樹されていて、桜のトンネルができます。
北国の春というのでしょうか、この頃から、一気に木々が芽吹いて様々な種類の花が咲き、暖かくなってきます。そして秋とは反対に、ずんずんと日が長くなり、 6月になると日没は22時過ぎ、日の出は3時半になります。寝不足です。
王立公園の桜。右の人は歩行車で散歩がてらの花見のよう。
ストックホルムの送迎サービス
ストックホルムの街なかで、時々タクシーによる送迎の様子を見かけます。車いすのまま乗り込んだり、歩行車を使っている人を乗せていたり。学童の送迎もありました。
せっかく福祉移動支援センターのブログに記事を書かせていただいておりますので、今回はストックホルムにおける公的な送迎サービスについてご紹介します。
公的な送迎サービスはストックホルム県によって行われていて、通院などの「医療送迎」と、それ以外の障害者を対象とした「送迎」に分かれています。「医療送迎」は、自宅と医療機関などとの往復に限られ、医療機関などで送迎の認定を受け、医療送迎カードを発行してもらう必要があります。
「送迎」の場合は、県に送迎許可証を申請して送迎カードを発行してもらいます。少なくとも、1.ストックホルムに住んでいて、2.自立した移動や公共交通の利用が非常に難しく、3.そのような状況が3か月以上続いていることなど が要件になっています。医師の診断書の提出や、調査員との面談も必要です。
送迎の方法などについては詳細に申請する必要があり、例えば、車いすタクシーの利用、ストレッチャータクシーの利用、電動カートでの乗車、助手席の使用、アレルギー対応車利用、相乗り不可、介助犬などの同行などが挙げられています。
本人の状況と申請の内容に基づいて送迎カードが発行され、送迎サービスが行われるため、条件に変更があったときには変更届を提出する必要があります。
料金は2022年現在、30キロまで約1,100円で、これを超えると30キロごとに約1,100円が加算されます。実走行距離ではなく、依頼時のルートの距離に基づいて算出されます。
この「送迎」では、前述した医療に関連する送迎を除く、旅行(レジャー)、出張、通学、お見舞い、リハビリ通所、お墓参りなど様々な目的で利用することができ、ストックホルム県では2022年現在、約7万人が利用許可証を取得しているそうです。
送迎業務は、タクシー会社に委託されています。運転手はタクシーの免許は持っていますが、医療や介助の責任や能力がないため、それらに関係すること(カルテを受け取るなども)は行わないことになっています。道中の支援(介助)が必要な場合は、付き添いを同行させる必要があります。同行者は1名まで無料だそうです。
また、個人情報保護の点から運転手は送迎の理由を知りません。障害は外から分からない場合が多いので、シートベルトの着用などで運転手の支援が必要なときは、利用者自身が要望を伝える必要があります。
送迎の回数は、送迎許可証(利用が認められたタクシーの種類)によって異なります。車いすタクシーの場合は、1年間いつでも利用できる72回に加えて、四半期ごとに110回の送迎が利用できます。余った回数を次の四半期に繰り越すことができますが、繰越分を年末年始に利用することはできないそうです。
送迎サービスの予約と運用
車は、予定の時間から5分以上待たせると帰ってしまうそうです。予約は利用の28日前から可能ですが、ストックホルムは渋滞が多いので、「どんなに事前に予約しても、直前に予約しても、時間通りに車が到着する保証はありません」と、案内に明記されています。10分以上遅れる場合は運転手から電話やSNSで連絡があるそうで、20分以上遅れると払い戻しが申請できるそうです。
車いすタクシーを利用する場合、ストックホルムでは登録された6つの事業者から自分で選んで直接連絡するか、自治体の送迎サービスに電話して手配してもらいます。予約時に希望すれば、玄関まで迎えに来てくれたり、階段昇降機を持ってきてくれるそうです。
できること、できないことがはっきりしていて、可能であっても追加料金の支払いが必要な場合もあります。運転手は、あくまでも予約されたとおりの車の運転と、車いすを押したりするなどの簡単な介助しか行えないので、予約時に利用者側からきちんとリクエストを出して、旅程を含めて送迎の調整をする必要があります。途中で手紙を投函したりする場合は5分、お墓参りの場合は20分、停まって待ってくれるそうです。
タクシーの多くはステーションワゴン(背が低くて後ろに長い車)ですが、写真のようなバン(背の高い箱型)のタイプも走っています。この車は、ヨーロッパでは商用車などとして広く使われている、米国フォード社の「トランジット」です。
これは「サムトランス」という、ストックホルムの車いすタクシー事業者として登録されている、送迎専門のタクシー会社の車で、よく見かけます。この会社は学童送迎からスタートしているそうで、この車も学童送迎に使われています。
街で見かけた送迎車両。大きいです。
車いすは後ろから乗ります。
運転手がそばで休憩していたので声をかけたら、親切に中も見せてくれました。このときはコロナのために運転席とアクリルの仕切りがありました。車内後方には、車いすが後ろから乗り込むための網目のスロープがあり、床には固定用のレール、シートベルトがぶら下がっています。車高調整機能があり、車いす乗降時には車体を下げることができます。
側面ドアからの車内の様子。側方にもサポートがある、しっかりしたシート。
奥の座席の後ろには階段昇降機が。
車内後方の様子。学童送迎用のチャイルドシートがあります。
送迎車を時々見かけるということは、皆さん、制度を利用して外出しているということだと思います。歩行車を使って歩く人も結構見かけますし、電動車いすや電動カートに追い抜かれることもあります。
積極的に外出できる社会というのは活気があって良いものだなと思いながら、スーパーで買い物をして、通りをぶらぶら歩きながら帰りました。
ちなみに今週のお値打ち品は、生アスパラ一束210円、シナモンパン一つ70円…でした。
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スタッフ:日記も3回目となりますが、「医療送迎」と「それ以外の送迎」について知ることができました。いずれも申請時に詳細な申告が必要であることに驚きましたが、“利用者自身が要望する”行為も含めての「制度の利用」と感じました。 他には、“アレルギー対応車”が気になったのと、送迎車両の運転手のかたの撮影協力に感謝です!
私:ストックホルムは公共交通のバリアフリーに力を入れていますが、それでも移動が困難な場合の解決手段が送迎です。目的は明確なので、どのように移動を実現するか精査しサービスを提供することは、理にかなっていると考えます。 今回は、以下のストックホルム県のホームページで公開されている情報(スウェーデン語のみ)に基づいて作成しました。説明は意訳が多くなっています。
Färdtjänstresor(移送サービス)
(次回、「夏のスウェーデン」を掲載予定です。変更の場合、ご了承ください)
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