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SPECIAL CONTENTS
「ウィラブ世田谷 
 そとでるへの応援メッセージ

   

●野村 一路氏 インタビュー

世田谷区にご縁のある「SPECIAL」な方をお訪ねし、「そとでる」へのメッセージをいただく「ウィラブ世田谷」。

9回目は日本体育大学スポーツマネジメント学部 スポーツライフマネジメント学科 生涯スポーツ学がご専門の野村 一路教授をお訪ねしました。


「レクリエーション」とは? 「人生を豊かにする」には?
「地域での連携」とは? 「福祉と大学」とは?

興味深いヒントがたくさんこめられた野村教授のお話をお届けします。



訪問者・世田谷区福祉移動支援センター「そとでる」:久米 譲二(赤堤介護タクシーNPO法人せたがや移動ケア・理事)

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野村 一路(のむら・いちろ)氏 プロフィール


1954年、東京生まれ。東京都立三鷹高等学校(サッカー部)卒、日本体育大学体育学部体育学科卒。その後、岩手県下閉伊郡田野畑村教育委員会社会教育係勤務。

1980年、渡米。ウィスコンシン州立大学大学院ラクロス校にて「セラピューティック・レクリエーション」(Therapeutic Recreation)に出会う。


帰国後、日本音楽高等学校講師、(財)横浜YMCA健康教育部ディレクターを経て、日本体育大学大学院体育学研究科社会体育学コース修了(体育学修士)。


(財)日本レクリエーション協会嘱託、日本スポーツ&レジャー学院講師、上智大学・日本体育大学非常勤講師、港区立城南中学校障害児学級講師等を歴任の後、1990年4月より日本体育大学体育学部レクリエーション(現生涯スポーツ)学研究室の助手・講師、2002年4月より助教授(2007年4月より准教授)、2011年4月より教授。


2018年4月より、体育学部からスポーツマネジメント学部教授へ異動。現在に至る。


ほかに、2012(平成24)年~2014(平成26)年度文部科学省委託事業「健常者と障害者のスポーツ・レクリエーション活動連携推進事業」協力者会議座長など、多くの場で活躍。



【担当授業】
生涯スポーツ論、スポーツライフマネジメント概論。スポーツ研究C・D(卒業研究を含む)

生涯スポーツ特論1・2・3・4、研究指導1・2(大学院)

国士館大学大学院スポーツ・システム研究科非常勤講師 (2002.9~2004.7)「身体障害者スポーツ特論」

聖学院大学人間福祉学部非常勤講師 (2003.9~2007.3)「リハビリテーション論」

東洋大学 ライフデザイン学部非常勤講師(2005.4~2007.9)「障害者スポーツ論」(2006.4~2007.3)「レクリエーション活動援助法 1・2」

東京成徳大学子ども学部非常勤講師(2011.9~)「レクリエーションスポーツ演習」

桐蔭横浜大学大学院非常勤講師(2014.9~)「生涯スポーツ特論」



【研究領域】

レジャー・レクリエーション(Leisur & Recreation)、セラピューティック・レクリエーション(Therapeutic Recreation)、生涯スポーツ(Lifelong Sports)、障がい者スポーツ(Para-Sports)


 日本体育大学
キャンパスは、東京・世田谷キャンパス(東京都世田谷区深沢7-1-1)、横浜・健志台キャンパス(神奈川県横浜市青葉区鴨志田町1221-1。世田谷キャンパスの4倍の約17万平米)のふたつで、今回は横浜・健志台キャンパスの野村教授の研究室を訪問させていただいた。



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「楽しい」がつくる豊かな人生

 ~スポーツ・レクリエーションのススメ





■「セラピューティック・レクリエーション」との出会い


── 本日はお忙しいなか、ありがとうございます。また、新型コロナウイルス感染対策で世の中全体が“非日常”の中、お時間をいただけたことを感謝いたします。

今日はお話をうかがう前に、私ども「そとでる」について簡単にお話しさせてください。

「そとでる」には現在(2020年3月)、112事業者・202台が登録しております。


行っている事業は主に4つあり、1.配車業務:ご利用者のご要望に対しての配車マネジメント、2.相談業務:ご利用者、区内のケアマネジャーさん等々からの利用法、料金、お困りごと等の相談対応、3.人材育成:登録事業者、スタッフ向けの研修会の企画・開催や「福祉有償運送運転者講習会」の開催と受講者の移動支援までの相談対応、4.連携・コーディネート:「せたがや福祉区民学会」等に参加し、多様な福祉の現場で活躍される方々との連携を目指す。また地域における「移送支援」の役割を意識しながら、他団体との連携やコーディネートを行う。……等を大きな柱として活動しています。



野村 はい。私も今回お会いする前に「そとでる」のホームページを拝見させていただきました。


── ありがとうございます。私どもも、改めて日本体育大学のホームページを拝見いたしました。そして、学生やご出身の方々のご活躍の数々に感激し、オリンピックをはじめ様々な大会でのメダル獲得数など輝かしい記録に圧倒されました。


同時に、そのような学び舎の歴史の中での野村先生のご研究・ご活躍は、私たちが行っていることに何かつながりがあるのではないか? とも思いました。


今も記憶に新しいのは、2018年に開催された「せたがや福祉区民学会第10回大会」での野村先生の基調講演です。改めて、当日のテーマである「地域におけるスポーツ・レクリエーション活動を通じた交流促進について─障がいのあるなしに関わらない取り組み事例から─」について、お話をうかがわせていただけたらと思います。



野村 「福祉区民学会」のときに私がお話しさせていただいた内容のなかで、気になった点をうかがって良いですか?



── やはり、「障がいのあるなしに関わらない」という表現やとらえかたでしょうか?

私たちは「移動支援」をさせていただいている団体ですので、まず、障がいのある方、ご高齢の方など、移動でお困りの方々の「移動」、「お出かけ」をサポートする任務があります。が、その先の「障がいのある人とない人」がどのように共に楽しんだり、スポーツやレクリエーションを行うかまではなかなか思いが至らないように思います。


けれど、実はそこまで考えて初めて、私たちにできることや新たな支援の方法が見えるのではないか? と思いました。


また、先生のご講演を聞いて、初めて知った体験会や事業も多くありました。「そとでる」の事務所のすぐ近くにボッチャ専用のコートをもつ体育館がありますが、スタッフたちは中に入ったことがありません。移動をお手伝いさせていただいているご利用者が、どのようにスポーツやレクリエーションに親しんでいるかということも含めて知らないことばかりという想いと、何か今後の活動における「ヒント」を持ち帰らせていただけるのでは、と思います。



野村 わかりました。私は「日本体育大学の野村」という看板を背負っていますが、社会的なラベルとしては「日体大の障がい者スポーツの野村」という認識をされています。変な話ですが、日体大に届いた郵便物の中で固有名詞や研究室名などが無いもので、宛名に「障がい者担当」という文字があると全部、私の元に届きます。つまり、大学の中で障がい者や障がい者スポーツに関する物については「全部、野村に回す」というふうになっているんですね。もちろん、中を確認して他の先生に回さなくてはいけない郵便物もありますので、その場合は正しい宛先へお届けします。


では、私のそもそもの学問的バックボーンは何なのかと言いますと「レジャー・レクリエーション学」という学問領域です。日本には「レジャー・レクリエーション学会」があり、レジャーやレクリエーションを専門に研究したり実践したりする人たちが学会員として活動されています。


「レジャー・レクリエーション学」と言っても、幅が広いです。例えば日本の遊びを歴史的に調べていくと、面白いことがたくさんある。貴族の遊びを庶民が真似して日本固有の遊びに作り上げていった。そんなことを専門に研究している研究者もいれば、野外活動、アウトドアアクティビティを専門にしている研究者もいます。また、「ランドスケープデザイン」という、造園や再開発等に伴う都市計画を専門にして、広く国民のレジャー・レクリエーションの活動に対してどのような公園造り、都市計画を行うかを専門にしている研究者もいます。


このように「レジャー・レクリエーション学」という学問は幅が広いのですが、私の専門領域は(垂直に平べったく言えば)「一人ひとりがいかに楽しい人生を送るかを支援する」ということなんですね。

「一回きりの人生、いかに楽しい人生を送れるか」を研究しようという「セラピューティック・レクリエーション」(Therapeutic Recreation)が、私の専門領域です。



── 「セラピー」ですか?



野村 「セラピー」は直訳すると「治療」です。「セラピューティック・レクリエーション」は直訳すると治療的レクリエーション、つまり「レクリエーション療法」ですね。残念ながらいまの日本では「セラピューティック・レクリエーション」は全く認知されていません。


私は日体大のゼミで「レジャー・レクリエーション学」を学んで、大学院に行くときに指導教員に相談したのですが、当時は国内ではそれ以上勉強できない領域だったんです。日本には700以上大学がありますが、学部、学科レベルでの学びができる大学は一つもなかったのです。レジャー・レクリエーション論や実技の教員はいても科目としてしかありませんでした。そこで、指導教員の勧めで大学のコースに健康、スポーツ、レクリエーション分野が必ず設けられているアメリカの大学院に行くことにしました。



── いきなりアメリカに行かれたのですか?



野村 日体大を卒業した直後は、岩手県の田野畑村の教育委員会で職員として働き始めました。つまり行政マンだったわけです。退職してアメリカの大学院に行ったのですが、最初はレクリエーション行政をやろうと思っていました。「国民のためのレクリエーション」環境を整えることは国の施策、自治体の施策として欠かせないことだと思っていたので。


「アメリカではレクリエーション行政はどうなっているのだろう」と思って行ったら、レクリエーションに対する価値観が、日本人と欧米人で全く違っていました。極端に言うと、「遊びは悪だ」、「働くことがすべて」という考え方が日本だとすると、「いかに遊ぶかが大事」という考え方が欧米。これでは「レクリエーション行政」を勉強して日本に持ち帰っても、役立たないと思いました。

アメリカの大学院では、「メジャー」、「マイナー」の2つの専攻をもちます。そこで面白そうだなと思った「セラピューティック・レクリエーション」を第二専攻にしました。




一人ひとりが「楽しく豊かな人生を歩む」サポートを


野村 では「セラピューティック・レクリエーション」とは何か? 例えば「今日仕事が終わったら、映画を見に行こう」と思ったとします。新型コロナウイルスで自粛期間の間は映画観賞もままなりませんが、日常生活においては、まず「映画館でどんな作品が上映されているか」を調べますよね。そして、チケットを予約したり、映画館で購入して映画を楽しみます。


でも世の中にはこのように「楽しみたい」と思うことを、自分ではできない方がたくさんいる。経済的に難しい、高齢で体力がないからできないという場合もあるし、なんらかの障がいがあり障がいが理由でやりたいことができない、あるいは、やりたいようにできないという方もいます。


そのほかの理由としては、「遊ぶといっても、自分が何をしたら楽しいと感じられるかわからない」という場合もありますね。つまり人生を楽しもうと思っても、何をすればいいのかわからない。


このように、これをしたいと思っても何らかの理由によってできない方、何をしたら楽しいかがわからない方に対して「できるようにする」、「何をすれば楽しいかをいっしょになって探してあげる」のが、「セラピューティック・レクリエーション・スペシャリスト」という専門家の仕事なのです。



── 初めて耳にしましたが、アメリカにはそのような職業の方がいらっしゃるのですね。



野村 アメリカではPT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)といっしょに、セラピューティック・レクリエーション=「TR」(セラピーのT、レクリエーションのR)が専門家として活動します。ケースによっては、日本でいう介護職やケースワーカー、ソーシャルワーカー、あるいは学校の教員とも協働します。


例を挙げれば、リハビリテーションをするとき、最終的に何が目的でリハビリテーションをするかというと、「その人が楽しく豊かな人生を歩めるようにリハビリテーションをしましょう」と考えている。そして、リハビリテーションを終えて、在宅になったり施設入所したあとを誰が対象となる方のレクリエーションに関して専門的に受け持つかというと、TRが担当するのです。


日本で言えば、コミュニティセンター、病院、刑務所、児童相談所、障がい者・高齢者福祉施設、デイサービス等の施設のようなところにいます。

TRの仕事は、「この人(参加者・利用者)にとって一番適切なレクリエーション・プログラムは?」を考えること。一人ひとりのニーズや、できることや、やりたいことに応じてプログラムをつくる責任者はTRで、施設等の職員はTRが作成したプログラムにそって実施したりします。


先ほど刑務所という場について出しましたが、アメリカでは薬物依存症の方々の施設にもTRが入ります。つまり、薬物で得られる快楽を「ほかのことが楽しい」ことを身につけてもらって退所させる。そして退所後も地域でフォローしていく。地域でずっとフォローしていくために今度は地域のTRに情報を受け渡します。



── 地域にもTRがいるんですね。



野村 はい。地域で、対象者が得られる収入でも「楽しい」と感じる生活を送ることができたら、人間は満足して生きられます。それが出来ないと「遊ぶ金欲しさから犯罪を犯す」悪循環は止まりません。アメリカには、対象者に介入して支援をする「セラピューティック・レクリエーション・スペシャリスト」という公認の資格がありますが、日本では認められていません。



── なぜですか?



野村 「レクリエーション療法」…つまり「治療」という言葉を使うことが認められないのです。PT、OT、STは国家資格ですが、同じようにセラピューティック・レクリエーション・スペシャリストも国家資格として認めてほしいです。


もうひとつ、「レクリエーションが、なんで国家資格になるんだ」という考え方もありますね。「そういうのは個人の自由であって、人に何かをされるものではない」という考え方。

そうではなくて、セラピューティック・レクリエーションというのは、自分ではどうにもならない、サポート支援が必要な人に必要なサポート支援をするための専門家ということです。


まさに「そとでる」のような活動をされている方や、社協とか、コミュニティセンター、学校などを結びつけるのがTRなのです。TRが、様々な機関と相談して「この人をそれぞれの立場からみんなで見ていこう。その人が楽しく人間らしく生きていける生活をみんなでサポートしていこう」ということですね。



── 関わり方のイメージがつかめてきました。



野村 まさにいま「そとでる」がおやりになっている移動支援の仕事も、TRの仕事としては重要な仕事です。もちろんTR自身は行わずに、「そとでる」のような機関に伝えて、「この人は映画に行きたいと言っているけれど、ひとりでは行けないから連れて行ってくれるボランティアさんにつないで、移動ボランティアの方を紹介して行ってもらえないか」とか、映画館側にも「こういう人が行くからちゃんと準備をしておいて」と話しておく。けれど、できるだけそのサービスは受けなくてもいいようにできる部分はしておくというか、「自分で行けるんだったら、行ける」ようにしていく。


たとえば知的に障がいがある方には、交通手段の使い方、切符の買い方、映画のチケットの買い方、そもそも映画館の選び方…など、わからないことを教えていくプログラムをその人用に組む。

子どもの場合だったら、日本では特別支援学校、アメリカでもスペシャルニーズのある子どもはそれなりの教育を受ける権利がありますので学校の先生がやってくださることもあります。でも、卒業後、生活をどう豊かにしていくか、学校では教えません。それは「地域」が教えることです。その中心は「楽しく遊んで、人生を楽しくする」という領域になり、そこをTRが担う。この考え方が、私のバックボーンなのです。




「この地域に住んでよかった」の想いを!


野村 私の所属は「スポーツマネジメント学部」ですが、以前は「社会体育学科」に属していました。そこでは、市民レベルで楽しむためのプログラムの一つとして体を動かしたり、スポーツをすることの重要性を話していました。特に日本人は運動不足病が蔓延していますが、ドクターから「あなたは糖尿病ですから運動をしたほうがいいです」と言われてもなかなかしませんね。

どうしたら良いのか? 「楽しく体を動かす」ことを覚えないかぎり、やらないでしょう。では、それを誰が教えてくれるのか?


たとえば特別支援学校の生徒たちが夏休みなどの長期休業期間や土日に、家で誰と遊んでいるか。先生は関与できない、親御さんも働いていらっしゃる。学童等にも行けない場合、家でずっと静かにしていたら太ってしまいますよね。


運動したいとき、誰が面倒をみてくれるか。世田谷区内でさえ、区内にスタッフやボランティアをやってくれる人がいるのかわからないし、誰に相談したらいいのかわからない。生活介護や区の保健福祉部の事業はわかっても、「この子が遊びたいと言っているけれど、どうしたらいいか」というときの相談窓口はどこにもない。そういうときこそ、「NPOで子どもたちの遊びを考えます」とか、「移動が必要なら移動をサポートします」とか、連携していかなくてはいけないわけですよね。


先ほど、世の中には「楽しみたい」ということをひとりではできない方がいて、その中には「何をしたら楽しいかわからない」という場合もあると話しました。子どものころに楽しく遊ぶ経験を積んでいないと、何をしたら楽しいという感情を抱くのかがわからないまま大人になっちゃうんですよ。そうすると、部屋で好きなお菓子を食べながらゲームでもしていたほうがいい、ということにつながりかねない。



── 子ども時代の経験が大事ですね。



野村 これは私の持論ですが、小学校6年間の教育って、人間として豊かに生きていくための基礎教育だと思うのです。算数・国語・理科・社会も大切ですが、体育、音楽、美術のほうが大事で「こっちのほうが生活を豊かにする」と。


いま明らかに社会保障費がかかりすぎていて、医療費を抑制しなければと言われています。そのためには体を動かす、運動をすることが大事でしょう。その基礎を幼保から小学校(特に低学年)時代、体育の専科教員が教えていないのに、中年以上、あるいは高齢者に対して一生懸命に指導するのは「順序が違うのでは?」と思います。


あと、「働き方改革」とか言っていますが、みんな「働きすぎ」ということはわかっていますよね。問題はその受け皿や、一人ひとりの意識が「遊んだら楽しい」と思うことにつながるか。どれだけ遊べるか。あるいは、お金をかけないで遊ぶ方法にどんなことがあるか。楽しむためにはどこに行けばいいのかということをすべての国民が知っていくこと。国民の意識改革、それが解決につながっていくのだと思います。



── からだを動かす楽しさ、何をしたら自分は楽しいか。「楽しい」と自覚することが、一人ひとりの「豊かさ」に結びついていくのですね。

また、TRの存在が認知されていない現在、「地域」は重要なキーワードと思いました。



野村 これは世田谷区との関係という場合ですが、たとえば、なんらかの障がいのある人たちが世田谷区内のどこに住んでいるかを把握しているか。障がいの種別などを根拠に、地域でどういう施策をうっていったらいいかを考えていかないといけないのに、「ボッチャ教室をやります」、「車いすバスケットボール教室をやるから来てください」と発信する。想定としては車いすユーザーに集まってもらいたいのでしょうが、そこにどれだけの車いすユーザーが集まるでしょう?

たまたまパラリンピックで注目を浴びているから「そういうのをやろう」と言っても、結局は興味のある人、行ける人しか行かない。興味をもたない人、行けない人はパラリンピックムーブメントから置いていかれるわけですね。


行政は、その人たちに向けてどういうアプローチをするのかを考えないといけないし、そのための受け皿をつくっていかなければいけません。そこで、私は「受け皿の一つになろう」と思って、世田谷区からの委託事業を大学が受け、その担当研究室として私が委託事業を実施しています。(世田谷区「障害のある人とない人も共に楽しめるスポーツ・レクリエーション交流事業
企画・運営・講師(2016年4月~))


その際に「スポーツ・レクリエーション」と銘打ったのは、運動嫌いの人、スポーツと言われたとたんに「無理、ムリ?!」となる人がいるだろうと考えたからです。

「レクリエーション活動」から「活動」をとった「レクリエーション」とは、結局「感情」の概念です。喜怒哀楽の中の「楽しい」に代表される言葉をセラピューティック・レクリエーションの専門領域では、「プラスの感情」と解釈しています。対して「マイナスの感情」は、辛いとか悲しいとか苦しいということです。


私たちは何気なく生活しているけれど、マイナスの感情を抱くような出来事はしょっちゅう起きるわけです。向こうから遠慮なくどんどんやってくる。新型コロナウイルス感染だって、国民全体が恐怖に怯えたり、不安に思ったり、「マイナスの感情」を抱く日々ですね。

でも満足する、達成感、克己心、楽しいなど「プラスの感情を抱く」のは、自分でアクションを起こさないと生まれないものなのです。


自らアクションを起こして、自分なりのレクリエーションたり得る行動を日常の生活の中にしっかりと織り込んでいく。つまりレクリエーションたり得る「プラスの感情」を抱かせてくれることが、その人にとっての「レクリエーション活動」。


「この曲を聴いて私は頑張れる」という人がいたら、曲を聴いたり、その歌手のコンサートに行くことがその人にとっての「レクリエーション活動」ですね。


これはもう、千差万別ですよね。十人十色、人それぞれ。薬物は法律違反だからダメですが。スカイダイビングをやりたい、スキューバダイビングをやりたい、サッカーをやりたいと思ったら、どうやったらそれができるようになるか、みんなでいっしょに考える。それを誰がやるかというと、身近に地域にいる人たちがいっしょになってやる。地域を構成する地域住民というのは、良くも悪くも「運命共同体」じゃないですか。苦しいときに助け合うのは、結局、遠くの家族よりも近くの他人ですよ。



── 地域に暮らす人々の大切さですね。



野村 世田谷区という、東京都では一番大きな区の中で、区レベルよりもっと小さい単位が「地域」です。私は小学校区単位ぐらいだと思っていますが、これだったら高齢者も移動しやすい距離です。だから「障がいのあるなしに関わらず」とお話しした中にいるのは、高齢者の方、小さい子ども、生活困窮者、障がいのある方、外国籍の方、日本語が習得できていない子どもたちもいるという、まさに「多様性」、「ダイバーシティ」なんですよね。


私は大学を通して事業の委託を受けるときに、「私はこの地域に住んでいてよかった」、「この人たちといっしょにいることが私の人生を豊かにしてくれる」、「楽しい」、「友達もいる」…そういうふうに思ってもらえることが一番大事だと区の担当者には話しました。そして、「これは単にスポーツ活動の提供だけではない。地域の人たちの状況や何を求めているかをアセスメントして、その方々がやりたいと思うことをできるだけ実現するプログラムにしましょう」と話したのです。


幸い区側も「ぜひそれをやってください。モデル事業としてやってください」と理解してくれて、私どもの研究室が受けることになりました。
(文末の写真:日本体育大学ホームページより)


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