「そとでる」のスタッフが、お世話になっている方・気になる方のもとへうかがって
“いま思っていること”をお聴きする「おじゃまします!」。
第9回は、「世田谷区重症心身障害児(者)を守る会」会長の村井 やよいさんにお会いしてお話をうかがいました。

●村井 やよいさん
世田谷区北沢在住。
世田谷区重症心身障害児(者)を守る会・会長
東京都重症心身障害児(者)を守る会・副会長
2018年10月から世田谷区障害者福祉団体連絡協議会・会長に就任。ほか

重症心身障害: 重度の肢体不自由と重度の知的発達障害とが重複した状態を重症心身障害といい、その状態にある子どもを重症心身障害児という。さらに成人した重症心身障害児を含めて重症心身障害者と呼ぶ。
「重症心身障害児(者)を守る会」は、すべてのライフステージにおいて守る親の会である。
(参考:全国重症心身障害児(者)を守る会「いのち ゆたかに」より) 


■さまざまな障がいを結ぶ「連協」

 ─ 2018年7月26日(木)に開催された学習会、「災害時における障がい者とご家族の避難を考える会」(主催:連協/世田谷区障害者福祉団体連絡協議会)で、初めて村井さんにご挨拶しました。
閉会時に村井さんが「連協の各団体のさまざまな障害に対して、さまざまな支援が必要だということが共有できた」、「言いっぱなし、聞きっぱなしではなく、次のステップも考えたい」と話されたことが印象的でした。
「そとでる」も参加させていただいている連協ですが、今後の抱負をお聞かせください。

 ひと言であらわすと「福祉の向上」です。連協は16団体の集まりですので、皆さんそれぞれが持っている課題、困りごとが異なります。具体的な課題、問題はそれぞれが要望書を出したりヒアリングしている現状ですが、連協全体で意識を統一できるところはする。統一できないことがあっても、できるところはして、「世田谷区内の福祉の向上」につながれば、と思います。


 ─ 学習会の会場で皆さんのご発言をうかがって、その多様性に「『障がい』とひと言で括るのは難しい」と感じました。だからこそ「災害時に起こるだろうさまざまな問題点について、一度みなで出しあおう、話しあおう」と呼びかけた主催者の皆さんの声が記憶に残っています。

 たとえば「多機能トイレ」ひとつをとっても、真逆の要望が出ます。私たち重症心身障害児者は、トイレでおむつ交換をする時にベビー用の台では小さいので大人用のおむつ交換をする台(ユニバーサルシート)が必要ですが、それを設置するにはある程度のスペースが必要です。また、知的障害の方も、トイレが狭いと目に入るボタンやスイッチに触れてしまうので、簡単に手が届かないようにある程度の広さが欲しいとうかがいました。
逆に、視覚障害の方の場合は、トイレのスペースが広いと便座まで行きつくのが大変とのことです。オストミーの方の場合は別のお悩みがあり、「多機能トイレ」を使用後に(外見だけでは障害があるとわからないので)、「普通の人なのに長時間使っている」という眼で見られてつらい想いをされることがあるそうです。
このように「多機能トイレ」にしぼってうかがっても、障がいごとにさまざまなご苦労があるのです。それならば、どうしたらよいかを考えて、全体の福祉が向上するように皆さんで話しあっていく。そうすれば、方策が見つかっていくのではと思います。


 ─ 学習会での村井さんの「ひとごとではなく、自分のこととして考えましょう」というお言葉のとおり、「そとでる」も何かできることはないかを考えていきたいと思います。


■「重症心身障害児(者)を守る会」の活動

 ─ 「重症心身障害児(者)を守る会」は親御さんの会ですね。全国・東京都・世田谷区の関係について教えてください。

 「全国重症心身障害児(者)を守る会」は「最も弱いものをひとりももれなく守る」を基本理念として、1964(昭和39)年に設立されました。「東京都重症心身障害児(者)を守る会」は、「全国重症心身障害児(者)を守る会」の支部として1966(昭和41)年に設立され、その後、1975(昭和50)年に地域分会として「世田谷区重症心身障害児(者)を守る会」が発足しました。
  
組織図「全国重症心身障害児(者)を守る会」発行の冊子   同・東京都、世田谷区それぞれのリーフレット


 守る会の基本理念(会の三原則)
●決して争ってはいけない。争いの中に弱いものの生きる場はない。
●親個人がいかなる主義主張があっても重症心身障害児運動に参加する者は党派を超えること。
●最も弱いものをひとりももれなく守る。



 「世田谷区重症心身障害児(者)を守る会」は、全国、東京都と連携・協力して活動していますが、世田谷独自の活動も行っています。やはり根底にあるのは、「子どもたちが生まれ育った世田谷で精いっぱい生きること。当たり前に幸せに暮らすこと」です。
私たち親の「子どもたちに幸せを」という強い想いから、会報の発行、研修会、体験学習など、さまざまな活動を行っています。
また、都内すべての市区町村に地域分会があるわけではないので、近隣の市区の方を世田谷区分会の会員として、一緒に活動しています。


 ─ 組織図を拝見して地域分会が思ったより少ないと思いました。「守る会」の分会はもっと必要ですね。

 はい。たとえば、個人が行政に要望を出しに行っても施策に反映されにくい現実があります。個人より会として区にきちんと有言するほうが、施策のお願いを申し上げる際に効果的なのです。
たとえば、現在国は「医療的ケア児」に光を当てています。市区町村もそれにならう方針ですが、分会がある市区ですと、それぞれ市や区に要望を出すことが可能です。世田谷区分会も「医療的ケア児」に関連する要望を上げていますが、分会組織のない市区は「医療的ケア児」に対しての要望が集約できないので行政に声を上げることができません。したがって行政は何を施策に取り込むべきかを把握しづらい一面があります。2018年に渋谷区、2019年に葛飾区と町田市、中野区が分会を立ち上げました。市区とのパイプが少しずつ増えています。
現在、「東京都重症心身障害児(者)を守る会(東京都支部)」が率先して地域分会の立ち上げをサポートしていますが、行政に働きかけるためにも、一つずつ会を作っていきたいと思います。

 医療的ケア児: 生活するなかで医療的ケア(人工呼吸器やたんの吸引など)を必要とする子どものこと。新生児医療の発達に伴いNICU(新生児集中治療室)が増設され、その結果 医療的ケアを必要とする子どもの数が増加傾向にあると言われている。 *スタッフブログに関連記事あり




■みんなで守った「私たちのプール」

 ─ 世田谷区の分会はどのような経緯で発足されたのでしょうか。

 「全国守る会」の本部は世田谷区三宿の重症心身障害児療育相談センターにあります。世田谷区は、全国の重症児者の砦ともいわれる守る会本部の”おひざ元”で、センター内の通所施設「あけぼの学園」に以前から通わせていただいていました。でも子どもたちの福祉のためには分会を立ち上げなくてはいけないと思って、1975(昭和50)年に発足しました。


 ─ 会員数はどのくらいでしょうか?

 親の会なので「ひと世帯に会員がおひとり」という数え方になりますが、現在、会員は90名ほどおります。そのうち世田谷区民は82名、区外の方は8名です。会報では世田谷区の情報だけではなく、全国、東京都の情報を流しております。


 ─ あったかい…。とても懐かしい感じがする会報誌ですね。

 そう言っていただけると編集長はじめ会報に関わっている会員の皆さんの励みにもなります。活字のほうが読みやすいという声もありますが、何十年もこのスタイルで続けております。2015(平成27)年には、40周年記念の冊子を作り、会員の皆さんの寄稿文と写真を掲載しました。
 宿泊体験学習(川場村) 日帰り体験学習(スカイツリー)


 ─ リーフレットを拝見すると「主な活動」として、大きく3つの柱がありますね。
事務局(定期総会、「かいほう」発行、世田谷区の障害者関係の協議会等への参加、要請活動など)、運動推進部(月例会、施設見学、研修会、水治訓練)、事業部(宿泊体験学習、日帰り体験学習、新年会・成人を祝う会、バザー)ですが、ご活動の中から具体的にご紹介いただけますか?

 重症児者の親って、結構のんびりしているというか…。「拳を振り上げて」というよりは、社会の理解を得ながら言葉で訴えていきます。
世田谷区立総合福祉センターのプールの改修に関しても利用団体みんなでプール存続の要望を提出し、運動しました。約3年前、総合福祉センターが「機能を変える、生まれ変わる」という話になり、その時「プールをなくす」という話も出ました。それはとんでもない話で、総合福祉センターのプールは「よくぞここまで考えてくれた」という施設なんです。初代の総合福祉センターの施設長がプールの必要性を認めてくださり、水温、室温はもちろん、「採暖室」にもこだわって作ってくださいました。実に障がい者、高齢者のからだをよく考えてくださったおかげで、安心して使えるプールになりました。
ですから「プールを取り壊す」という話が出た時、関係している団体みんなが反対したり要望を出しました。私たちの会も、障がい者が利用している日本中のプールを調べてデータを比較したのですが、総合福祉センターのプールはどこにもひけをとらない立派なプールでした。その結果を区に報告したところ、最終的に「良いかたちで残しましょう」とお返事をくださいました。
しかも、そのあと、アンケートをとって希望を聞いてくださったんですよ。改修後はもっと良いプールになっているのでは? と期待しています。
そして、2019年(令和元年)度の1年間の改修工事が2020年3月で終わり、4月からいよいよ総合福祉センターが生まれ変わり、「総合福祉センター後利用施設」として活動開始です。(*写真は、水治訓練(総合福祉センター))


 ─ やはり、声をあげることは大事ですね。

 そうですね。体温調節が苦手な子もいるので水温、室温は大事ですし、採暖室は必須です。「命」にもかかわることですから。


 ─ 親御さんたちの熱い想い、ご活動が伝わってくるお話ですね。



■誰もがその人らしく生きていける社会

 ─ 最近、村井さんが気になっていらっしゃることはありますか?

 世田谷区は先だって「医療的ケア連絡協議会」を立ち上げましたが、国の施策では「医療的ケア」ではなく「医療的ケア児」なんです。ところが世田谷区は、連絡協議会を立ち上げる際にあえて「児」を削りました。私たちが「『児』」はすぐに『者』になります」と声を上げ続けたことが影響しているかと、うれしかったです。
「医療的ケア」の問題は、重症心身障害児者にとっても切実です。「医療」と「福祉」は切り離せないし連携していく必要があるので、その連携を世田谷区にお願いしたいと思っています。


 ─ 行政に対してきちんと要望を出していく。一つひとつ考えを伝えていくのはご苦労と思いますが、本当に重要ですね。

 10年前と比べて、障害児・者が暮らす環境は大きく変わりました。福祉の向上につれて、親の意識も変化してきたと思います。
ライフステージをイメージするとわかるのですが、問題はまだまだあります。たとえば特別支援学校に通っている12年間は都がかかわっているけれど、卒業したら多くの人が区の施設に通うことになります。ところが区の通所施設は医療的ケアの必要な人が通える施設が限られていて、通所日数が利用者の希望通りにならない人もいます。
さらにその先を考えて、在宅で通所して親が面倒をみているとします。今度は、親があとどのぐらい子どもの面倒をみることができるだろう? という問題に直面します。
「いま施設にいる人を、地域に戻そう」という声があります。でも重症心身障害児者の場合、「医療」がなければ命が守られません。そこで、「全国守る会」は、「重症心身障害児者にとっては、施設こそ命を守る場所」という署名運動を行い、厚労省に提出しました。
それで「重症心身障害児者を施設から地域へ戻すのは無理」とご理解いただき、「地域移行」という言葉の中に投げ出されることがなくなりました。今こそ、学齢期の子どもを持つ親御さんは卒後の通所施設のことを、通所施設を利用している子どもの親御さんはご自身が老いた時を考えてほしいです。
都内の入所施設は満杯で、500人以上が待機しています。待機している方が入所できるのは、施設の改築・改修で病床が増える場合、親がもう一度家庭に引き取った場合、そして入所者のどなたかが亡くなられた場合、というのが現実なのです。


 ─ 先ほど、区内に施設がないとお話しされましたが、今後「東京都支部」として行政に働きかけていくご予定はありますか?

 都は「新しい入所施設は作らない」と何年も前から言っていますが、3年前から上部団体の東京都支部が動き始め、在宅生活実態調査を実施しました。現在でも既に在宅での介護が厳しくなっているご家庭があり、さらにこれからの10年後の親の介護力を考えた時の入所施設の必要性が浮かび上がってきました。東京都支部では今後もこのアンケートを継続し、在宅介護の実態を都の推進協議会などに提出し、入所施設の必要性を訴えていく予定です。」
世田谷区の「東京都支部」としては、区が「医療」と「福祉」の連携に取り組んでいただけるよう、地道に粘り強く活動したいと思っています。
いろいろお話ししましたが、どんなときにも「活動の真ん中にいるのは『子ども』」です。「私は常に守る会の活動の「原点」は子どもたちだという気持ちで活動しています。


 ─ けっして揺らぐことのない「原点」ですね。村井さんの「夢」をうかがってもよろしいですか。

 とても抽象的ですが、「誰もが多様性を認め合って、誰もが必要な支援を受けてその人らしく生きていける社会」です。また、ささやかな夢ですが、言葉を持たない娘ともう一歩進んだコミュニケーションがとれたらうれしいです!


 ─ そのような社会になるために動かなくてはいけない、と思います。先ほど、お嬢さんのお写真を見せていただきましたが、とってもかわいらしいですね!
最後になりますが、「そとでる」へのご要望など教えてください。

 今は家族が送迎できても、何年かしたら介護する家族の高齢化とともに移送サービスにお願いする、というケースが増えてくると思います。需要が増えても配車に支障がないようお願いします。
また、災害時、被災地から外へ避難する場合、何らかの形で「そとでる」さんにはお世話になると思います。
区からの要請があるかも知れませんし、個人的な依頼もあるかも知れません。その時に備えて、マニュアルや、ガソリンの備蓄準備など必要かも知れません。


 ─ ありがとうございます。メッセージを事務局長、スタッフで共有いたします。ほかに発信したいことがありましたらお願いいたします。

 重症心身障害児者は人数も少なく、あまり社会の中で認知される機会が多くありません。社会の障がい理解のためには、まず知ってもらうことが大切です。
宿泊、日帰りの体験学習も、障がい者の体験のためはもちろんですが、外に出ることにより社会の皆さんに障がい者に接してもらうことも大きな目的です。
また、イベントに参加して名前を知ってもらいます。
毎年「区民ふれあいフェスタ」では、区役所の中庭テントの一つをお借りしてバザーを出店します。
区民会館ホールのPRコーナーでは数分の短い持ち時間ですが、舞台でPRさせていただきます。
区民会館1階ロビー(ホワイエ)では、子どもたちの作品を展示いたしますので、よろしかったらのぞいてください。
(*写真は、「区民ふれあいフェスタ」のバザー)


 ─ お話をうかがって、親から子への想い、継続して声をあげていくこと、要望の出し方等々、強く心に残りました。本日はお忙しいなか貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。


(取材・文・写真: せたがや移動ケア/「そとでる」 スタッフ  石黒 眞貴子)
*プロフィール、体験学習、水泳風景はお借りした写真です。