■“困っています”が、つながりを生む
― 「特定非営利活動法人ハンディキャブ☆ゆづり葉」は、協議体の所属法人として選出されており、杉本さんは副委員長の役職に就任されています。
また、「市民による市民のための自立支援事業」という「ゆづり葉」の取り組みは、「ノーマライゼーションの理念を地道に実践する支えあいの先駆的事業」と、多摩市から認識されており、信頼関係の深さを感じます。
私たちの“まちづくり”というミッションは、20年前から変わっていません。
たとえば、多摩市は多摩ニュータウンがあるので、“上下移動”がしばしば問題になります。当初「少しでも安く利用していただくことを目指そう」という声が出ました。その話し合いの際、もしも、私たちがすべての事業を「安く」という価格優先の視点で行なったら 根底にひそんでいる“上下移動”という重要な移動・環境の問題点などが表面化しなくなる恐れがあると気づいたのです。
制度はあとからついてきます。行動するときは、まず「何が本当に“まちづくり”につながるか?」を考えることが大切だと思います。
― 「制度はあとからついてくる」。
とても熱い想いを感じますが、杉本さんご本人はどのようなきっかけで、この活動を始められたのでしょうか?
多摩市に聖ヶ丘病院というホスピスがあるのですが、資格がないこともあって本を読むボランティアをさせていただいていた時期がありました。ある日、その方のご家族からお食事の介助を希望されましたが、それにはヘルパー2級の資格が必要だったのです。
そこでヘルパー2級の資格を取得することにしましたが、その後、夫の父の介護が必要になりました。
そのとき、「あぁ、こんなふうにボランティアや介護、資格はつながっていくものなのか」と実感したんですね。
― 必要なことと向き合ううちに、つながっていく…
はい。“つながる”って、とても大切なことだと思っています。
そして、 “困っています”という問題点や声(ニーズ)は、すべて何かしらに“つながる” ”ということではないか? と思うのです。
たとえば車を使って外出するという行為は、障がいがある方や高齢者の方の社会性につながりますよね。運転できる者が支援することは、高齢者のとじこもり・ひきこもりを少なくすることにつながると気づきました。
― それにしても、女性12名が現在のかたちをスタートさせたとは!
たとえば現在はおでかけサロンのメンバーとして活動している森岡さんは、もともと生活者ネットワーク活動されていたので、立ち上げ時の会則づくりなどの手順を経験されていました。彼女だけでなく、当時のメンバーにさまざまな才能を持った人材がいらしたことが大きいです。
あとは、常に“女性”の感覚を大切にしていたように思います。
現在、メンバーには男性も多く、運行者の多くは男性ですが、どなたにも細やかな視点があり、市民活動であるということを理解してくださっています。そのようなメンバーの存在が“強み”ですね。
― それでは改めて、2013年4月にオープンした「さぽたま」についてお聞かせください。
「さぽたま」は、地域の福祉交通の情報収集や、かかわる人を育てること、ネットワークづくり、足りないサービスの創出を目的に設立しました。
それまで移動サービスを行なって感じていたことや、(世田谷区で起きた)移動サービス団体の運行者の事故を検証したことがきっかけで、「運行量が増えると、事故リスクが増えるのでは?」と危惧を感じたのです。
つまり、「市民活動には一定の活動量があるのではないか?」「利用需要に合わせて活動のみを拡大するのではなく、市民活動の原点は“福祉のまちづくり”に力を注ぐことではないか?」と思ったのですね。
そんな想いが根底にあり、「私たちだけで考えるのはやめよう。みんなで考えよう」という考えや動きが、『多摩市生活支援体制整備事業』のひとつ、『多摩市生活支援・介護予防サービス提供主体等協議体』にうまく結びついたのだと思います。
(多摩市生活支援・介護予防サービス提供主体等協議体: 生活支援サービスおよび介護予防サービスの体制整備に向けて、多様な主体間の情報の共有、連携及び協働による資源開発等を推進するため、定期的な情報の共有及び連携の強化の場として設置された)
■移動支援にかかわる人を増やしたい
― それでは、これから「ゆづり葉」、「さぽたま」が目指すのはどのようなことなのでしょうか?
私たちの車によるサービスは、実は世田谷区からやってきた1台の軽の福祉車両からスタートしました。ですから、世田谷区はとても縁の深い区だと思いますし、世田谷区と多摩市の共通点もあると思います。
ただ、多摩市は“地域差”がはっきりしているんですね。その“地域差”を良しとすることがポイントではないか? と考えています。
常にエリアごとのポイントを調べて、地域による“資源の見える化”を把握する。そして市民の声として出てきたものを課題にして、「協議体」の中での移動や居場所や生活支援を考えて今後のサービスをつくりあげていくこと。
サービスをいっせいにやるのではなくて、「困った!」というニーズに合わせて、みんなで考えていくことが大切だと思います。
― いま、自治体は何をやっていいのかわからない状態にある。巷でそんな声を耳にすることも多いですが…。
自治体は、個人レベルの「困っている」というデータを集めにくいのではないでしょうか? だから、どういう問題があるのか、つかみにくい。
つまり、困っていらっしゃる方のお声をどうやって聴いていくかですよね。配車のご予約やご相談をする方だけではなく、ご予約やご相談をすることすらもご無理で、かつ移動に困っている方のお声を聴くという“聴き方”が大事だと思います。
また、今後の方針としては「訪問型サービスB(生活支援)やD(移動支援)」(住民主体による支援):新しい総合事業。介護保険の介護予防訪問・通所介護が全国一律の保険給付から、市が実施する介護予防・日常生活支援総合事業に移行。多摩市は2016(平成28)年4月より開始)に取り組む予定です。
そもそもスタッフ不足など難しい課題もありますが、私たちはまず「多摩市生活・介護支援サポーター養成研修」を今年度受託することで、サポーターを養成することからはじめていきたいと思っています。
(地域における高齢者の個別の生活ニーズに応える生活支援の担い手を養成するための講座。講座を受講すると多摩市指定事業所に登録する事により「訪問サービスB」に携わる事ができる)
しっかりと丁寧に、“困っています”をお聴きすること。そのために、お聴きできる人、支援できる担い手をつくっていくことが大切だと思います。
― 「移動」は生活の豊かさに直結しているのですね。本日はお忙しいなかお時間をいただき、ありがとうございました。
◆「おじゃましました!」訪問後記
スタッフの皆様、突然の訪問をあたたかく受け止めてくださって、本当にありがとうございました。
「移動支援」に関しての想い、ぶれない活動や柔軟なネットワークづくりは大変勉強になりました。
「やっぱり、『移動支援』にかかわる人たちを増やしていきたいんですよね」と最後におっしゃった杉本さんのほほ笑み、スタッフの皆さんたちのキビキビとした立ち居振る舞いがいつまでも記憶に残っています。
これからもよろしくお願い申し上げます。
(取材: せたがや移動ケア スタッフ 泉谷 一美、石黒 眞貴子。文・写真:石黒 眞貴子/2枚目の写真:「特定非営利活動法人ハンディキャブ☆ゆづり葉」ホームページより)