■移動しやすく、活動しやすい環境のために
そとでる 少しボランティアやユニバーサルデザインについてお聞きしたく思います。
移動支援においては、運転協力者として有償でボランティアをされている方々の存在がとても大きいです。そのような支援者についてはいかが思われますか?
保坂 「運転」ということを考えるとき、車を動かせる人はいるけれども、人を乗せるのは大変だと思います。たとえばカーブの切り方や、ブレーキのかけ方も含めて、少し自信がある方でないとできません。「私、バックはできません」という方に、この仕事は無理ですよね。
そのような技術・経験を含めて、活動したことに対して「有償」ということは当たり前だと思います。ただ、「有償である」という対価だけを考えると、「もっと効率的に運転だけしたほうが稼げる」という声も出てくるでしょう。一方、稼げる能力の方であっても、「社会的な有用性、意味があるから、私はこの収入でじゅうぶんです」と言う方がいらっしゃる。これを“ボランティア”と呼ぶのだと思います。
もちろん「ボランティアなら無料のほうが、なお、いいんじゃないか」という考えもあるでしょうが、運転は責任が生じます。そういう意味では、私は有償ボランティアが適していると思います。
そとでる ありがとうございます。福祉移動に携わっていると、ユニバーサルデザインやバリアフリーの問題に直面することがあります。ご利用者さまから「ゆったりとした浴場を利用したい」という声をお聞きしたこともありましたが、ユニバーサルデザインやバリアフリーに関してはいかがでしょうか。
保坂 そうですね、なかなか経営が難しく、歴史がある公共浴場の存続自体が大変であるという現実もあると思います。けれど、いただいたような声を受け止めて、行政として銭湯、浴場にユニバーサルデザインに対する配慮を求めるだけでなく、サポートをしていく方向もあるのかな? と思っています。
■情報発信に込めた想い
そとでる 話は変わりますが、区長はご就任以降、想像できないような過密スケジュールだと思います。何か特別な健康法をお持ちなのでしょうか?

保坂 健康法は特にないですが、意識していることはあります。毎日、緊張を続けているとどうしても疲れるし、能率も落ちます。ですから、“緊張するところは緊張して、ゆるめるところはゆるめる”使い分けをするようにしています。
そとでる お忙しいのに、ツイッターやブログ日記を発信していらっしゃいますね。どのようにお時間をつくっていらっしゃいますか?
保坂 移動中などに書くようにしています。なぜ発信しているかというと、やはりどうしても“行政の中でやっていることはわかりづらい”と思うからです。私と一緒に仕事をしている秘書は私がやっていることを把握していますが、区の職員たちに私のしていることは見えづらいという現実がありますから。
ツイッターやブログでは、「誰と会った」とか「誰が来ました」というのは書かないように気をつけています。書いた人と書かない人が出るのは不公平ですし、そういう内容より、“この立場にいるからこそ入ってきた情報”の中から「大事だからやってあげたい」ということを選んで書くようにしています。
そとでる 移動時間を使ってお書きになるということですが、短い時間の中で、さまざまな出来事や案件に対して、どのように頭を切り替えていらっしゃるのですか?
保坂 区長になる前は国会議員としての活動とジャーナリストとしての活動を同時にしていましたので、その頃から複数の仕事をしています。そうすると一日中、同じことをやるというより、ジャンルがまったく違うことに同時進行で向き合うようになっていきますね。
いま現在も同じで、この時間は福祉移動の話をしていますが、20分前に私の前に座っていらっしゃった方とはまったく異なるジャンルの話をしていました。
皆さんのお話を聞かせていただくというのはいわば“インプット”ですが、インプットばかりだと消化不良になってしまう。それで今度は、お聞きしたことを書いたり、まとめるようにします。“聞く”ことと、“出す”ことは違いますし、私にとってはとても必要な切り替えになりますね。
あと、頭の切り替えということでは、たとえば長野県飯田市に行って太陽光発電の話をお聞きしたりする。すると話の内容はもちろん、場面を切り替えるという意味でも切り替えには良いと思っています。
■「外に出ること」――人間らしい営みの実現
そとでる 最後に、ご利用者さま、もしくはそとでるについて何かメッセージをいただけると幸いです。
保坂 まず感心するのは、「『そとでる』(=外出る)という言葉をよくつけたなぁ」ということですね。
「外に出ること」は、特に移動困難な方にとってなかなかハードルの高いことです。「誰かに迷惑をかけるんじゃないか」とか、そもそも頼む人がいないとか。あるいは家族が弱ってきて、車を出してもらえなくなったという方々にとって、“電話1本で配車してくれる”という仕組みは、あるとないとでは大違いでしょう。
支援されている側にはいろいろなご苦労があると思いますが、ぜひ、当事者の方にとっての“杖”、“下駄”、あるいはその両方になっていただきたいと思います。
人間が外に出て、いろんなものにふれたり、誰かに会うこと。そういう人間らしい営みを実現することに貢献されているという意味で、皆さんに敬意を表していますし、世田谷区としてもぜひ応援をしていきたいと思っています。
そとでる 本日は貴重なお時間をありがとうございました。

(2011年7月21日、世田谷区役所にて)
聞き手:そとでるスタッフ(羽石、鬼塚、荒木、石黒)、まとめ・写真:石黒
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