■“元気になる介護タクシー!”をモットーに
― ご開業のきっかけは?
中野のマルイボウルやジャパンレディスボウリングクラブに勤務していた2003年頃、「介護タクシー」の存在を知りました。
この仕事ならボウリングと両立できそうだし、オーナー感覚で働けるのでは?(笑)なんて思って、2007年に普通自動車二種免許を取りました。
同じ年に「プリンスカップ」(主催:プリンスホテル)という大会のテレビ決勝で3位になって100万円いただくことができ、即、開業資金にしました。
実は2005年頃から膝に痛みを感じるようになっていて、それもきっかけとなったかもしれません。
膝は、2008年に東邦医大で1回目の手術を受けまして、合計3回手術しています。2009年に医者から「もうボウリングはできないね」と言われた時は、かなりショックでしたね。
― いつも人生のどまんなかに、ボウリングがあったのに…。
そう。でも、あの時期にはっきり言われたことは自分にとって大きな意味があったと思います。
2010年に開業してからは無我夢中の1年でした。6月22日が初仕事でしたが、その日は“ボウリングの日(1861年6月22日、長崎の出島に初めてボウリング場が伝わった。日本ボウリング場協会が“ボウリングの日”と制定)”なんですよ。まったくの偶然でしたが、感激でした。。
― 初めてのご利用者様を覚えていらっしゃいますか?
2回目の膝の手術で入院した時、同室の方々に「こういう仕事をします」と名刺を配ったんです。その時の名刺を知り合いに見せてくださった方がいらして、ご紹介いただきました。
「車いすを利用していますが、病院から赤坂プリンスホテルまでお願いできますか?」というお話で、着物の着付けの先生をしている方でした。
「ホテルのパーティーに行くことをとても楽しみにしています」とお聞きして、「その想いをかなえたい!」と強く思いました。それで初仕事の前にホテルに行って、車の止め方、対応の仕方をチェックしたのですが、ホテルの従業員の方々が丁寧に教えてくださったのを記憶しています。
― 鈴木さんの一生懸命な感じが伝わったのですね。
ともかく必死でした。そのお客様はホテルで着物に着替えて、無事に壇上でスピーチされました。うれしかったです。
― その方も華やかな場にご出席なさってお喜びだったでしょう。ほかに、印象に残ったご利用者様はいらっしゃいますか?
今まで自宅の階段を歩かれていたのに、薬の副作用などで車いすでの移動になった方がいらっしゃいます。「いつかは歩きたい」と思っていらっしゃる方なので、「一緒に頑張っていきましょう」とお話ししておつきあいいただいています。長いおつきあいになると思うので、パートナーに介助を覚えてもらって2名体制で階段介助をするようにしました。
余談ですが、私とかかわっていただいた方は、皆さん、お元気になっていかれるんですよ。だから「ランサポートの車に乗っていただくと元気になっていただけますよ!」とアピールしています。
■ご利用される方の笑顔のために
― 日々心がけていることはありますか?
3月11日の地震以降ということでは、震災直後のテレビニュースでドライバーが「ガソリンをなかなか入れられない」と言っているのを聞き、“その日使ったガソリンをその日のうちに入れる”主義を強化しました。備えあれば憂いなし…ですよね。
あとは、体調管理とにおいでしょうか。体調管理に関してはマッサージに行ったり、自分でテーピングしています。
― ご自分でメンテナンスできるのは、ずっとスポーツしていらしたからでしょうか。
テーピングは他人に教えられるぐらいの腕前です(笑)。
においについては、仕事でお客様の後ろから「失礼します」と手をまわす時など気をつけています。
― 猛暑の汗は気になりますが、特にプロならではのお気遣いがあったらお聞かせください。

ごく普通のことですが、洗濯物を漂白剤につけたり、香水をきつくならないように少しつけたり。
また、路上喫煙者の煙が車内に入らないよう注意して、車内のさまざまな残り香に気を配るようにしています。
― こまやかですね。
最後に抱負やメッセージをお聞かせください。
自分で開業して、女性にもできる仕事だと思いました。階段介助や担架での移送など、男性の力なくしてはできないことが多々ありますが、将来は女性グループで2名対応などできたらいいなと思います。女性ならではの気配りができるチームというか、現在「ヘルパーの資格を持っている」女性が二種免許を取って始められたら素晴らしいと思います。
― もう具体的なイメージをお持ちですか?
具体的な案はないんですよ。でもボウリング仲間も年齢を重ねてきているので、「資格と免許を取って、一緒に働こう」と冗談まじりに話しています。
ほかにお伝えしたいのは、“介護タクシーと普通のタクシーの違い”ですね。お客様のために料金を安くするのは大切なことですが、普通のタクシーと何かひとつ差をつけたうえで基本介助料をいただくことも大事だと思います。
私たちの仕事は、お客様のおからだや状態を一番に考えた介助が基本です。そのお手伝いのための特殊な車両やリフトに安全にご乗車いただくことも、基本介助の一部ではないでしょうか。「基本介助料がつくから高い」と言われないように、「サービスできることを(料金内に)たくさん入れる」という考え方ですね。
最終的にお客様が満足してくださるかどうかわかりませんし、私自身、言葉遣いも含めて夜中に反省して眠れなくなることもあります。それでも日々考えたり改善して、少しでもお客様にご満足いただけるように努力したいと思っています。
― ところで、先ほどパートナーの方と階段介助をされているとおっしゃっていましたが、鈴木さんのお仕事にご理解あるんですね。
彼のことは人生のパートナーというか、“ライフパートナー”と呼ぶのがふさわしいと思います。
彼が私の仕事を手伝ってくれることになってから二種免許を取って、ヘルパーの講習にも行き始めました。
介護タクシーはヘルパーの資格がなくてもできますが、お客様の安全のためには、勉強が大事です。それに、今後、彼に手伝ってもらう機会が多くなったら、もう少し試合に参加できるかもしれませんよね(笑)。
― 今日はボウリングのお話を通じて、介護とスポーツの関係性について考えさせていただいたような気がします。
ボウリング場で企画をたてていた経験があるので、常に「皆さんに楽しく遊んでいただきたい!」という想いが強いのかもしれません。
先にお話ししたチャリティーボウリング大会だったら、ご本人だけでなく付き添いの方にも楽しく遊んでいただきたいと思うし、自分が投げるのではなく、他人の投げているのを見て「頑張れ!」って手をたたいたり、声を出して応援することもスポーツだと思うのです。
障がいをお持ちの方、介護する方が外に出るのは大変なことです。
けれど「スポーツやボウリングをしたい」とおっしゃる方がいらしたらお手伝いしたいし、「運転だけでなく生活の中で楽しみを見つけ出すお手伝い」を心がけたいのです。
私にできることがご利用者様の“外に出る機会”になって、ご本人や介護されている方が笑顔になるなら…と、心から願っています。
【インタビューを終えて】
いつも傍らにあるもの・あってほしいもの。
鈴木さんの場合、小学生のとき出会ったボウリングが“それ”だったのかもしれません。
そして今、ボウリングを通して得た「楽しむこと」「努力すること」を、「ランサポート」での仕事や数々の出会いに自然に生かす鈴木さん。
ライフパートナーさんと一緒に、ぶれることなく進むお姿に元気をいただきました。ありがとうございました。
(取材・文・写真:石黒眞貴子)