■仕組みを変えて…利用しやすく、働きやすく
― 3月11日に東日本大震災が起こり、今も刻々と状況が変わっています。大変いたましいことですが、当日はどこにいらっしゃいましたか?(インタビューは3月末)
あの日は千葉県館山市にいて、高校の卒業式に出席した帰りでした。
― ご家族の卒業式でしたか?
息子が通学する学校のPTA会長を務めさせていただいているので、どうしても行かなくてはいけませんでした。国立館山海上技術学校という国土交通省所管の学校で、ひと言でご説明すると「船員を養成する学校」です。地震があったのは卒業式が終わってから数時間たって、謝恩会が終わった頃です。私は謝恩会に出なかったのですが、「そろそろ帰ろう」というところで車がグラッ!ときました。
結局その日は、家に帰ることができませんでした。高速道路が全部ストップしていたんです。
― お泊りになるところはありましたか?
はい。その日はビジネスホテルを見つけて泊まりました。翌朝6時半に帰路につきましたが、東京に着いたのは夕方5時過ぎでした。あとから聞いたのですが、ご利用者様が病院に行って帰れなくなったそうです。近所にお住まいなら歩いて帰れますが、遠方だったのでタクシーで帰るしかない。でも車を拾えない。それで「今から来てくれ」と私どものところへご連絡くださったそうですが、私は館山にいたので対応できなくて…。
結局、そのご利用者様は、病院に一泊されました。理解がある病院だったから良かったですが、同じような状況の方は多かったのではないでしょうか?
― 大変でしたね…。当日はもちろん、その後もガソリン不足など大変な状況が続きましたが、「そとでる」では登録事業者の皆様あてに「ガソリンスタンド情報」をメールで発信させていただきました。(3月17日から20日まで実施)実はこの情報発信は、ある登録事業者の方のアイデアから生まれたものなのです。
そうでしたか! ガソリンスタンドの情報交換は大変助かりました。「どこそこで、こうだよ」という情報が世田谷区内に限らず入ってきたので、「給油に行こう!」という気持ちになりました。あの頃はどこに行っても行列で、空いているところを自分で探すのは本当に大変でしたね。
台東区内には、「そとでる」のような支援センターがないので横のつながりがありませんが、そういった“情報交換の場”があるのはいいですね。
― これからも登録事業者の皆様のアイデアやご意見をお聞かせいただけたらと思いますが、二村さんはお気づきのことがありますか。
「そとでる」へ…というより、私が常々思っていることがあります。
介護タクシーを始める時、“個人事業主”になる方も多いと思いますが、始める時の不安要素は多いものです。現に私の友人も「どうしていいかわからない」と相談してきましたし、どうやったら開業できるかわからないんですね。
厚生労働省の試算では、「2020年には高齢者が日本の人口の3割を占める」と予測されています。社会の変化に対応するという点でも介護タクシーは注目の分野だと思いますが、「始めたいけど不安」という声が多い。
そこで立ち上げたのが「社団法人日本介護タクシー協会」です。
協会では協会員になっていただいた方に、開業するための準備、どうしたらリーズナブルに開業できるか、開業までの流れなどをわかりやすくお伝えしています。私自身、実際にすべての手続きを自分で行いましたので、そのノウハウをこれから始めたいという方にお伝えしたいと思っています。今のところ、台東区を中心に進めています。
― それは台東区だけのお話ではないですね。
最終的な目標としては、現在あるさまざまな団体が一緒になって、介護タクシー業界をよりよくしていくこと……。病院限定でも良いので、介護タクシーが“客待ち”できるようになったらいいと思います。そうすれば迎車料がかかりませんし、ご利用者様にも私たち事業者にとっても良い方向ではないかと。
― まずは病院において、迎車料のない“客待ち”を実現したい…とても具体的な目標ですね。
はい。介護タクシー業界の人間が協力してそういうかたちに変えていけば、運転手は病院の前で待機できるようになります。また、ご利用者様はわざわざ車いすをたたんで、タクシーの運転手から嫌な顔をされることもなくなると思うのです。
ぜひ、多くの方と一緒にお話しあいできたらと思っています。
■それぞれの暮らしを高めたい
― 日々ご両親ががんばっていらっしゃることについて、お子さんの反応はいかがですか?
うちは子どもが3人いまして、上の2人は女、末っ子が男です。一番下は先ほど話しました、国立館山海上技術学校の学生なので将来は海の仕事に就きます。
長女は結婚して家を出ましたが、次女は慈恵大学の看護専門学校に行っています。あと1年で看護師になるんじゃないかな?
― やはりご両親の影響はありますか。
特にないみたいです(笑)。息子の場合は海が好きなのと全寮制なのが良かったかな? 全寮制で生活していると大変なこともあるけれど、3年間で確実にたくましくなると思いますから。
― 親にとって、わが子の成長は何よりの楽しみですね。最後に、あらためて二村さんの夢をお聞かせください。
「介護タクシーの事業者が食べていけるようになること」。そのためには介護タクシー業界や運転手についての認知度を上げることも大事ですし、“客待ち”ができるようなシステムを作って、できれば行政を動かすぐらいになったらいいですね。
もうひとつの夢は、「ご利用者様がすべてを運転手に頼ることなく移動できる」お手伝いを目指すことです。お気づきと思いますが、「アクティブ・クオリティ・オブ・リビング」という本社名は「クオリティ・オブ・ライフ」の想いを込めているんです。
― 「QOL(クオリティ・オブ・ライフ):生活の質を高める」ためのサポートですね。
“できないことができるようになる”とでも言いましょうか。その“できるようになる”ためのお手伝いを私たちヘルパーがする。これは在宅のヘルパーに限ったことではなく、施設、タクシー、すべてにおいて当てはまるのではないでしょうか?
ですから、利用者ができることは、あくまでも利用者がやる。できないことを少し助けることによって“できるよう”にお手伝いし、“利用者の生活の質が少しでも健常者に近づくこと”が大切だと思います。
― リーフレットの「先の福祉を考える。」というコピーについても、お聞かせいただけますか?

福祉にはお金がかかりますが、今後、利用者の負担が増えてくることは誰でもわかることです。ましてや高齢化社会はこれからも容赦なく進んでいきます。
わかっていることは、このままでは“いけない”ということ。何かを変えていかなければいけない。「少しでも利用者の皆様に変化していくことを伝えていき、その変化に備えていただくこと」が大切だと思います。
最後に…タクシーも健常者と同じように手軽に利用できて、どこでも乗って行けたら楽しいですよね。「そとでる」は、その架け橋になっていくのではないでしょうか?
「私はからだが不自由だからあそこには行けない」なんてハンディキャップを、少しでもなくしていけたらいいですね!
【インタビューを終えて】
「急なお客様がいらっしゃるので、30分で終わってよろしいですか?」
お会いしてすぐにおっしゃった二村さん。短い時間のなかで、「少しでも伝えたい!」という気迫で夢や想いを語り伝えるお姿。圧倒されました。
そして翌日の早朝、思いがけずいただいたメール。取材者への「伝えたい」という想いを再び感じました。
これからもすてきなパートナーさんとともに、熱い想いで多くの方をサポートし、道をひらいていくでしょう。お忙しいなか、ありがとうございました。
(取材・文:石黒眞貴子 写真:泉谷一美)