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■わかちあう仲間がいる幸せ
― 山中さんがスタッフの皆さんに、「これだけは伝えたい!」ということはありますか?
スタッフ全員に伝えたいことは、「ご利用者様が第一」ということですね。「ご利用者様を安全に目的地にお連れする。そして満足していただくこと」が重要です。 もちろん、ドライバーには車の運転について、「段差」などの細かい技術を言うこともあります。でも、運転だけではない。車の運転をしっかりしてもらうのは前提で、そのご利用者様がどういうかたで、どういう介助を必要とされているか、希望されているかを把握することです。 タクシー、あるいはバスや電車をご利用できないかたから相談していただいているわけですから、スタッフ全員に運転技術以外のことを伝えたいと思っています。 僕にとって、スタッフが増えたことは「収穫」なんですよ。 「わかちあう」というか…。ひとりのときって、何についてもわかちあうことはなかったです。今は、スタッフたちと、共有しあって、共感しあって、わかちあっている。 それができる今が一番楽しいし、自分にとって「仲間」がいてくれること自体が楽しいですね。
― うかがっていて、共に働く楽しさが伝わってきます。スタッフは「仲間」なんですね。
「介護タクシーの理想って何かな?」って、開業した頃に考えたんです。先ほどトレーニングの話をしましたが、トレーニングって「ひとり」なんですよ。しかも、自己満足の世界。ですから、介護タクシーの仕事を始めた頃、同じように「ひとりでいい。ひとりが楽しい」と思っていました。 ところが最初はそれが楽しかったのに、何年かやっているうちに「仲間」がほしくなったんですよ。 仲間と同じ仕事をすること。そのなかで共感を求めるっていうとおかしいですが、自分で配車して、みんなで仕事をして、無事に一日が終わる。充実感がありますし、楽しいです。
― 山中さんの中で、何かが変化したのかしら。
開業の頃は自分勝手だったかもしれないなぁ。「自分」、「自分」ってガツガツやっているうちに、孤独感みたいなものが出てきたのかもしれないですね。今は、仲間と「一緒にこれをやろうよ」とか、「この介助はこんなふうにしよう」と話しあったりするようになっているのですから、不思議ですね。
― 毎日、皆さんで話しあいなどされるのですか?
スタッフとは毎日必ず電話でやりとりしています。1か月に1回は、集まって全員で話しあいます。
― お休みはとっていらっしゃいますか?
世田谷区の「借り上げ車両」として運行委託をお受けしているので、365日営業しています。
― 区の運行委託事業者になられたのはいつからですか?
2015(平成27)年からです。対象のかたや登録手続きなど詳細については、冊子『せたがや福祉移動サービス案内』(発行:世田谷区障害福祉担当部)や、世田谷区のホームページをご覧いただきたいと思います。
【問い合わせ先】 申請について: 各総合支所保健福祉課またはあんしんすこやかセンター 制度について: 障害者地域生活課 (電話5432-2421 / 2422 FAX 5432-3021) |
■「夢」に託す熱い想い
― お時間も近づいてきましたが、ご利用者様、「そとでる」へのメッセージをお願いします。
ご利用者様には「開業して13年。ご利用者様の8割から9割が世田谷区民の方々です。世田谷地域の皆様のお役に立ちたいと考えています」と、メッセージを送らせてください。 「そとでる」についてですが、僕が開業した頃はひとりで仕事をしている人が多かったんです。「そとでる」のように配車したり相談するところがなかったので、事業者間で配車センターのようなやりとりをすることもありました。僕自身、「そとでる」の存在をご利用者様に紹介することがありますが、便利です。僕たち事業者にとっても、ご利用者様にとってもありがたい存在で感謝しています。 現在、「そとでる」に登録している事業者数はどんどん増えて、まさに「躍進」ですよね。これからも世田谷区が関わっている事業として、皆でご利用者様にとって理想的な仕組みを目指せたら良いのではと思っています。 ― ありがとうございます。13年間やっていらして、介護タクシーの業界が変わったと思うことはありますか?
僕はNPO出身ということもありますが、まず教わったのが「良心的」であること、「すべてをビジネスで片づけない」ということです。いろいろ変化もありますが、僕には今もその気持ちがベースにありますし、最初に指導してくださったかたに感謝していますね。
― それでは最後になりますが、山中さんの「夢」についてお聞かせください。
今までも、現在も、今後も同じだと思いますが、1件、1件、一生懸命やらせていただきたいです。 モチベーションが下がらないように、始めた頃と同じような気持ちで一生懸命、仕事に取り組みたいですね。 また、この仕事に興味があって「やりたい」というかたがいらしたら、手伝っていただきたいと思っています。
― ご家族は山中さんのお仕事について何かおっしゃっていますか?
僕は開業後に結婚したのですが、妻は応援しています。受付も手伝ってくれていますよ。子どもは小学生が2人いますが、僕の仕事をよく理解してくれていると思います。 「子ども」と「夢」というつながりで言うと、子どもってよく学校や大人から「夢はなんですか?」と聞かれますよね。 僕が子どもだった時代から多いのは、サッカー選手、プロ野球選手、学校の先生になることだと思いますが、「介護タクシーの運転手になりたい」って言う子はいないですよね?
― 残念ながら、私は聴いたことがないです。
救急車とか消防車の運転手になりたいって言う子はいても、「介護タクシーの運転手になりたい」と言う子は少ないと思います。でも、街中を「らくらく介護タクシー」って書いてある車両で走っているのを見たからか、車庫に入れたりしている時に「あ、らくらく介護だ!」と声をかけてくれる子どもがいるんですね。「介護タクシーだ!」と言って挨拶してくれる子もいますよ。 そういう子に会うと、将来、「介護タクシーの運転手をやりたい」と言う子どもたちが増えてくれたらいいなと思います。
― 熱い、素敵な「夢」ですね。
そう。そうなれば、いま、移動で困っている方々の問題が減っていくような気がします。 10年前の自分では言わないようなことですが、「将来、介護タクシーをやってみたいという人が増えてくれたら」と願っています。開業してから、いろいろなご利用者様に感謝の言葉をいただいて、人のやさしさを教えていただいた。だから、このような「夢」をもてるのかもしれません。
【インタビューを終えて】 今まで多くのかたのお話をお聞かせいただく機会がありましたが、山中さんのようにご自身の「変化」について率直にお話しされたかたは珍しいように思います。その「変化」は、仕事、仲間、ご利用者……そして、ご家族から生まれたものでしょうか。山中さんご自身が変化を経た「いま」を、「楽しい」と感じていらっしゃることが素晴らしいと思いました。 山中さんの充実感、楽しいと思って物事に取り組む姿勢は、これからもご利用者、お仲間、さらには未来の「介護タクシー」事業者につながっていくに違いありません。私もうかがいながら、子どもたちが当たり前に「移動で困っているかたの役に立ちたい」と思ったりするような日常を想像しました。希望に満ちたお話を、ありがとうございました。 (取材・文・写真:「そとでる」スタッフ・石黒 眞貴子)
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