SPECIAL CONTENTS
「ウィラブ世田谷
そとでるへの応援メッセージ」
●坂東 眞理子氏 インタビュー
毎年、世田谷区にご縁の深い「SPECIAL」な方をお訪ねし、
「そとでる」へのメッセージをいただく「ウィラブ世田谷」。
インタビュー第5弾は、昭和女子大学 学長・坂東 眞理子さんにお話をうかがいました。
世田谷区太子堂にある学校法人昭和女子大学(創立:1920年、大学設置:1949年)。全学生の自主的な企画・運営による学園祭「秋桜(コスモス)祭」や地域住民向けの生涯学習プログラムの開講などで区民に親しまれる同校は、地域連携センターの設立、世田谷区との包括協定締結など、地域との連携・協力で広く知られています。
自然豊かな世田谷キャンパスに坂東 眞理子学長をお訪ねし、学生たちへの想い、福祉、高齢社会の生き方などをお話しいただきました。
坂東 眞理子(ばんどう・まりこ)氏 プロフィール

昭和女子大学 学長(第8代)。富山県出身。
東京大学文学部卒業後、1969年、総理府入省。
1978年『婦人白書』を執筆。埼玉県副知事、在豪州ブリスベン総領事(女性初・総領事)、
総理府男女共同参画室長、内閣府男女共同参画局長等を経て2003年、退官。
その後2004年に、昭和女子大学教授就任。副学長、女性文化研究所長を経て、2007年、同大学長に就任。
多数の著作で知られ、エッセイ『女性の品格』(2006年:PHP研究所書)は2007年、大ブームに。320万部を超えるベストセラーになった。
主な著作:『日本の女性政策』(ミネルヴァ書房)、『夢を実現する7つの力』(ロングセラーズ)、『60歳からしておきたいこと』(世界文化社)、『ソーシャル・ウーマン─社会に貢献できる人になる』(ブックエンド)他
“世田谷モデル”
─「共感力」あふれるまちに
■高齢社会に必要な「福祉リテラシー」
スタッフ(「そとでる」外池・石黒) 本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。私たちは世田谷区で「世田谷区福祉移動支援センター そとでる」という移動困難な方々の外出支援を中心に行っております。
その運営を担当しているのが「せたがや移動ケア」というNPOですが、世田谷区の補助事業として活動させていただいております。現在、「そとでる」は区内、近隣の介護タクシー事業者、NPOの移動団体が登録していますが、その数は83事業者、登録台数155台にのぼります。
坂東(坂東 眞理子氏) 需要を考えるとまだまだ少ないですね。
スタッフ 東京都23区内では世田谷区で登録している台数が一番多いそうですが、今後さらに、ご利用者を増やしていきたいと思います。
坂東 まだ、このような移動支援のサービスをご存じない方がいらっしゃるかもしれませんね。
世田谷区に限らずだと思いますが、日本の福祉はさまざまなメニューがあっても「量」が少ない。あるいは存在を知られていないことが問題かもしれません。「使いやすくする」こと、「量を多くする」ことの両方を改善していくべきですね。
「外へ出る」ことのお手伝い、外出支援について、多くの方に知られると良いですね。
スタッフ はい。実は「そとでる」は世田谷区が支援しているということで他区でも紹介されることがあるのですが、実際に外出に困難を抱える「ご利用者」の事情を聴いて、それに対応する「登録事業者」をマッチングさせるのが、「そとでる」の特長です。
坂東 そうですか。マッチングは本当に重要ですね。サービスがあっても、そのサービスを必要としている人がいても、そこを「つなぐ人」がいなければ利用できませんから。
スタッフ はい。その特長をご利用者に知っていただければ、非常に使い勝手の良いサービスではないかと思います。
坂東 以前、「福祉」は自分から要求するものでなく与えられるものでした。行政が配慮して「この人にはこういうサービスが必要」という“あてがいぶち”でしたが、これからは「高齢社会」、かつ多様な人たちが色々なニーズをもっています。「行政の供給で一律に」では、かえって利用者本人の満足度が低くなるでしょうし、行政側もコスト的に厳しいです。
私はよく「情報リテラシー」と話すのですが、同じように「福祉リテラシー」も必要だと思います。
リテラシーというのは、「どういうサービスがあって」、「どういう制度があって」、「自分が利用できるサービスにどういうものがあって」、「それを利用するにはどういう手続き、働きかけが必要か」を活用する能力ですが、社会生活をしていくうえで誰にでも必要なことです。字が読めないと社会生活が難しいのと同じように、社会で生活をしていくとき、特に高齢者は「福祉リテラシー」をもたなくてはいけません。利用者が自分から出て行って、必要と思うサービスを選べるようになると良いですが、まだまだ「過渡期」だと思います。
スタッフ ご利用者だけでなく、例えば「この場合は介護保険を利用するサービス」、「こちらの場合は介護保険を使わないサービス」というように、全体を的確にコーディネートする人材が不足しているかもしれません。
坂東 まさにそうです。それは介護保険だけではなしに、高齢者ビジネスや障がい者の方々が利用しやすいビジネスについても同じで、それらを総合的に把握する人が本当に少ないのですね。
スタッフ 私たちも日々の業務や研修等で学びをいただきながら、「ご利用者に合うサービスが何か」を判断していきたいと思います。また「福祉リテラシー」の一環としてご活用いただけるよう、「そとでる」をPRしていきたいと思います。
■失敗が生む「共感力」
スタッフ 「そとでる」のパンフレットや研修会のチラシで使わせていただいている緑色のロゴですが、実は2010年に昭和女子大学の環境デザイン学科の学生さんが作ってくださったものです。
坂東 そうでしたか! それはぜひぜひ、ご紹介ください。
スタッフ こちらこそ、よろしくお願いします。ロゴを目にする度に、「ご縁をくださっている昭和女子大学の学生さんは、どのようなキャンパス生活を送っていらっしゃるのかな」と気になります。
大学のホームページを拝見すると「5つの特色」と「夢を実現する7つの力」という言葉が強く印象に残りますが、この「特色」「力」が昭和女子大学の学生さんの就職率の高さ(「学生の就職率93.9%」(2015年7月調べ))と関係しているのですね。大学で皆さんがどのような「力」を育んでいらっしゃるのか、お聞かせください。
「5つの特色」
1.伝統ある女性教育 2.すぐそこにあるグローバル 3.社会とつながる実践教育 4.女性リーダーの育成 5.きめ細やかなキャリア教育 | 「夢を実現する7つの力」
1.グローバルに生きる力 2.外国語を使う力 3.ITを使いこなす力 4.コミュニケーションをとる力 5.問題を発見し目標を設定する力 6.一歩踏み出して行動する力 7.自分を大切にする力 |
『夢を実現する7つの力』(ロングセラーズ) |
坂東 学生には「夢を実現する7つの力」の前に、「夢をもとう!」と話しています。私のイメージは「若いうちは夢をもっていて当然」だったのですが、実際に学生と話すと「夢を見てもどうせ実現しない」と言う人もいるのです。そのような学生には「人生は、実現するか実現しないかは別として、夢をもつこと。そのために進んでいくのよ」と話します。夢をもっても実現しないことも多いでしょう。だからこそ「自分に力をつけてほしい」という想いで、「7つの力」を教えています。
特に5、6、7については「昭和女子大学に入学したら身につけてほしい」と伝えていることなので、少しご説明させてください。
まず5つ目は、「問題を発見し目標を設定する力」。自分で課題を発見し、それに優先順位をつけることです。高校までは、課題は「与えられるもの」でした。けれど現実の人生で生きていくときは、「私は何に取り組めばよいのだろう」「この問題を解決しなければいけないのではないか?」と考えて取り組んでいきますね。もちろん、それですべてうまくいくわけではないので、「あきらめないでやっていくことが大事」と話しています。
何より、人生には正しい質問もなければ、正解があるとも限りません。現実には、正解が3つも4つもあったり、逆に1つもないことがあるのです。そのなかで、「セカンドベスト、サードベストはなんだろう?」と考えなくてはいけないと話します。
スタッフ 年齢を重ねると実感することですね。
坂東 そう、現実に答えが複数ある場合、自分で答えを探さなければいけないのです。「私はこれをやっていく」と選んで、決めて、やっていくことは、「他をあきらめる」ということですよね。そこをきちんとしなければ、「あれも、これも!」ということで時間がなくなって、人生があっという間に終わってしまいます。
そして6つ目は、「一歩踏み出して行動する力」。「最後までやりぬく」ことです。決めた課題や夢に向かって一直線に進める人は、まずいません。必ず、「うまくいかない」、「そんなはずじゃなかった」と思うことがあるけれど、そこでもう1回、「自分で自分を励まして立ち上がる」のです。励まして立ち上がったあと、「最後までやる」プロセスが大事だと伝えます。
それから、「失敗から学ぶことが多い」と話します。たくさん失敗すると、他者への共感能力をもつことができます。実はこの「共感力」が、これからの福祉社会において重要です。
最後の7つ目は、「自分を大切にする力」。こう話すと「自分を大切にする人ばかりじゃないか」と言われそうですが、「利己主義」とは異なるのですね。そうではなくて、「自分の長所を大事に伸ばしていく」。そのためには、自分を信頼し、自分を見捨てずに「私にもいいところがあるんだ」と、自分で自分を励ましてやっていかなくてはいけないんです。
6つ目の「最後までやりぬく」にも結び付きますが、「どうせ私なんか、何をやってもダメだ」と思わずに、あきらめないでやっていく。「人から励まされるのを待つ」のではなく、「自分で自分を励ます力をもつ」ことが、「自分を大切にする力」
だと思っています。
スタッフ 励まされるのを待つのではなく、自己肯定から始まる力というか…。
坂東 はい。自分中心に「自分を大切にして終わる」のではなくて、それによって「たくさんの人を助ける力」をもてるようになってほしいのです。
スタッフ お聞きしながら、それは私たちも意識したいと思いました。
坂東 いつも意識するのは難しいですから、「もう私はダメだ」と思ったときに「いやいや、ここであきらめてはいけない」と思い出せばいいのだと思います。落ち込むことによって得る学びがたくさんあると思うので、「学生のうちにたくさん失敗してください」と話しています。
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