■大切にしている緊張と恐怖心
僕自身は、「毎日が反省と後悔の繰り返し」なんです。仕事がタイトにつまっているとどうしても急いでしまいがちなので、そういうときこそ「ていねいにできたかな?」「もう少しだけ(ご利用者の)頭を上げてさしあげたかった」などと考えます。
“僕の流儀”というと偉そうになりますが、「一期一会」を大事にしたいんです。
具体的には、おからだが悪くて、話しかけられることさえ苦痛な方に対して、最初の挨拶と終わりの挨拶をご本人にかけるようにしています。たとえ、その方が聞いていらっしゃらなくても、きちんと相手に話しかけさせていただくことが、相手に対しての「敬意」と思っています。
― 民救の話をされたときに「痛みや苦痛を与えない」ように心がけていらしたとのことでしたが、「せたがや介護タクシー」に入られて「一期一会」という信条が加わったのですね。
「せたがや介護タクシーを使ってよかったなぁ」という、そのひとことをお聞きしたいのかもしれませんね。ご利用者が転院したり、入退院するということは、ご本人だけでなくご家族にとっても一大事です。時間を調整して、仕事を休んだり、遠くからいらしているかもしれない。そう思うと、敬意をはらって、ていねいに、かつ迅速に対応したいと思いますし、篠山さんも同じ姿勢だと思います。
すべてがきちんと終わったときに「これで終わり」ではなくて、「使って良かった!」というお気持ちをもっていただけるとうれしい。私たちはターミナル(ターミナルケア。終末期の医療・看護・介護)の方に接する機会も多いですから、その方の人生にとって一大事であるときに、「必要とされて関わらせていただける」ということをきちんと受け止めて働きたいですね。
ですから、「ていねいに、ていねいに」。そして、「迅速に」です。
あとは「緊張」。「人間を相手にしている」ことに魅力を感じると同時に、「恐怖心」をいつももっているのが基本だと思います。対応する相手は「健常者」ではなく、疾病をもっている方、と意識する。だからこそ、緊張は大切です。
― 「なれすぎない」ということでしょうか。
はい、それは大事です! いい加減にやっていると、必ずしっぺ返しがありますね。カテーテルにしても、ストレッチャーにしても、いい加減だと、ひっかけたりはさんだりすることも出てくるのではないかと思いますし、そのような事故を耳にすることもあります。いわゆる「ヒヤリハット」については、常に意識をもっていないとこわい仕事です。
― 良い対応につながる「緊張」とはいえ、お疲れになったときはどうゆるめるのですか?
それこそ、「ご利用者のお言葉」ですね! 緊張した分、ご利用者のひとことが何よりうれしい。
この仕事は、言葉ひとつ・仕草ひとつでその方がすべてを物語る瞬間に関わらせていただいています。だからこそ、なるべくお会いしたときに一瞬で何かを感じるようにしているし、ありがたく思うのです。
■無理せずに・欲張らずに
― ご利用者様にお伝えしたいことはありますか?
介護タクシーをご存じない方がまだまだたくさんいる、と思うときがあります。おそらく多くの方が病気になったり、けがをして初めて、介護タクシーの存在を知るのではないでしょうか? いまだにこのようなサービスがあるとご存じない方がいらっしゃることに驚きますし、知っていただきたいと思います。そのためにも、お会いする機会がある方にはサービスについてお話ししたり、資料ファイルをご覧いただいたりしています。
― 「仲間」についてはいかがですか?
僕自身、ひとりで開業する前の「修業」の場として篠山さんを頼った経緯がありますが、実際に現在のかたちで働かせていただくと、篠山さんを通して仲間が増えたと感じます。また、「ネットワーク」のありがたさを実感しています。
たとえば、仕事が重なってどなたかにお願いしたいとき、「Aさん」に「やらせてやる」じゃなくて、「やってもらう」姿勢で、自分たちができない仕事をお願いする。その気持ちが篠山さんの根本にあるんですね。
ご利用者が依頼してきたことを「できません」と断るのではなく、なんとか良い方法を考える。そして、同業者の信頼できる方に「やってもらう」。最初は「え、そんなに簡単に他の人に仕事を譲るの?」と思ったこともありましたが、現実に、5件お仕事をいただいても車が2台ですから、3件は対応できません。だからこそ、信頼できる人にその3件をお願いしたいと思います。
― 篠山さん、平賀さんの中に「良い方法を見つけて、少しでも世の中を良くしたい」という想いがある。その延長線に「他者と分ける」「分かち合う」選択があるのでしょうか。
そう思います。何がなんでも自分がやるじゃなくて、「できるかもしれないけど無理をしない」。無理をすればご利用者に迷惑をかけるかもしれないという意識をもって、“正攻法”で対応していくことですね。
― 「欲張らない」のは、勇気がいることですよね。
そう、欲張らないのは大事だと思います。「ケアキャブミッケ!」は、まさに市場を“開いている”世界ですね。
■弟から渡されたバトン
― 転職されて、介護タクシーの世界で働き始めた平賀さん。ご家族は何かおっしゃっていますか?
妻は僕が介護の道に入ったときにすでに介護職の先輩でした。だから理解してくれていると思いますよ。子どもは現在大学生と高校生ですが、転職は僕自身の人生を考えるとタイミングが合っていたし、家族と話す機会が増えたので喜んでいます。
2013年の4月から赤堤の実家で両親、弟と同居を始めました。ところが弟が今年(2014年)1月に亡くなってしまって。「よく今まで頑張ったなぁ」という想いと同時に、「今度は僕が親孝行するよ」と思いました。
弟は生まれたときから障がいをもっていたけれど、亡くなってから、彼が「親孝行」していたと実感しました。だから今度は、兄である僕が弟からバトンを受け取って親孝行をする番。弟のことはひじょうにさみしいし、弟がいたからこの世界にすんなり入ったと感じています。
― 平賀さんの「親孝行したい」とおっしゃるお言葉に共感します。
ところで平賀さんの「夢」はなんですか?

今、「せたがや介護タクシー」で働いていることで、「夢」がすべてかなったと思っています。好きな家族に、好きな仕事をしていることを認めてもらっている。そして、好きなことを好きな仲間と一緒にやっている。だから「夢」はかなったと思うし、いいほうに向かっていると思いますね。
― すてきですね。最後に、「そとでる」へのメッセージをお聞かせください。
これから介護タクシーを開業される方にとって大きな力になってくださると思うし、「架け橋」の役目をありがたく思います。まだまだ他区にはない仕組みだと思うので、ずっと継承していっていただきたいです。
― ありがとうございます。私たち「そとでる」のスタッフも、常にご利用者様の状態やお言葉に意識をそそぐようにしたいと思います。本日はありがとうございました。
【インタビューを終えて】
インタビュー中「今まで生きてきて、篠山さんみたいな人に会ったことがなかったんですよ」と、うれしそうにおっしゃった平賀さん。おふたりがもっていたノウハウやビジョンがタイミングよくかみ合った瞬間、それはお互いの「違い」を好ましく思った瞬間でもあったのではないでしょうか。
偏見や思い込みをもたずに新しい世界に飛び込む力。分かち合いや、良いと思うことをネットワークでつなぐ精神。「せたがや介護タクシー」(ペイフォワード)のスタッフ・三人三様のお力が、毎日、ご利用者様一人ひとりを「ていねいに」「迅速に」受け止めています。
(取材・文・写真:石黒眞貴子)