「そとでる」のスタッフが、お世話になっている方・気になる方のもとへうかがって
“いま思っていること”をお聞きする「おじゃまします!」

第2回はNPO法人せたがやオルタナティブハウジングサポート SAHSの井上 文さんを、赤堤のSAHS事務局にお訪ねしました。

      

「みんなが住みやすいまちづくりのために
 ~直球で届ける支援をめざして」


◆一人ひとりの“気持ちの環境”を上げる

── 活動を始めたきっかけは?


 「SAHS」は2000年にNPO法人の認証を受けましたが、もともとは任意団体でした。「自分たちの住まいは自分たちで考えていくことが大事」という観点で、コーポラティブハウスを作る方を応援する会として1996年に発足しました。

 その後NPO法人設立時に考えたのは、「まちづくりに向けて多数の方が関わるには?」ということ。コーポラティブハウスは、お金がいくらかかるかわからない・いつできるかわからない“贅沢”。
だからこそ住まいだけでなく、場や仕組みについても支援していきたいと「NPO法人せたがやオルタナティブハウジングサポート」という名称にしました。

 専門家として「主体的にまちづくりを考える方」と思った方をサポートすることと並行して、
「支援とは、必要な方々に直球で届けたい」と考えるようになり、自然に高齢者や、しょうがい者の視点での「まちづくりのあり方」について考えるようになっていきました。


── せたがや福祉区民学会のご発表(2011年)でトイレ調査(世田谷区全図の掲載されている車いすマークのついたトイレの調査)と「トイレマップ」について知りましたが、そのような想いがあったのですね。


 はい。調査は社会福祉法人世田谷区社会福祉協議会の「地域支えあい活動助成」をいただき、6年にわたって活動しました。実際に始めてわかりましたが「外へ出て行こう」と言っても、その方々にはたくさんのバリアがあって、条件さえ整っていない。さらにヒアリングした皆さんの声から、「高齢者の方にはベンチ、しょうがい者の方にはトイレが大事」とわかりました。そこで私たちは直接届く支援として、「まちなかに一か所でもベンチやトイレをつくっていく」活動を実践事業として位置づけました。

 そこでまず、身内やまわりで「私の土地を使っていいよ」という方の土地をお借りして、ベンチをつくったり、建物の一か所を広げてトイレをつくるようにしました。









絵文字:矢印 左2009年9月に完成した「地域のトイレ」第3号(シーマシーマカフェ
世田谷区のユニバーサルデザイン生活環境整備補助金補助事業の助成金を受けている。壁の絵はアーティストと一緒に地域の子どもたちとのワークショップで創作された。


 
 ベンチ・トイレづくりを6年間で4か所ずつ実現したあとにトイレの調査を始めましたが、
「今あるトイレってどうなっているんだろう?」という視点でまちなかの車いす利用可能なトイレにしぼり、“実際に使う方の眼”で検証しました。

 マップ制作の目的は、「一番困る方のことを優先したい、考えたい」という想い。
良いトイレをつくっても、そのトイレを本当に使いたい人が使わずにお化粧する場として占領したりするのはちょっと違う。おおもとは利用者の「良識」や「気持ち」の問題につながると思うのです。

「良いトイレ」と言っても、なんでもかんでも機械仕掛けにすれば良いのではない。
もちろん整備は必要ですが、全部がそうではないですよね。
ちょっと段差があったら手をそえる人がいればいい。
私たちの話しあいでは「最終的にはみんなの“気持ちの環境”が上がっていかないと、いくら良いトイレをつくってもだめ」という結論になりました。

 実はトイレの調査に参加された方たちは、参加することで少し変化されたんです。



── どのようなことでしょう?


 「しょうがい者の視点」と言っても、一人ひとり、そのしょうがいによってまったく違います。
たとえば目の悪い方にとって、トイレが広いとかえって怖く感じる。
逆に車いすの方は、ある程度広くないといけません。

 毎年「いいトイレの日(11月10日)」にあちこちの車いす用トイレを実地検証するのですが、
「しょうがいが違うと、こういうふうに違うんだ」「私は今まで『ここが困る』と思っていたけれど、
別の人は別のことで困っている」と気づく。
そこから「自分のことだけを主張すると、別の人が困る場合があるのかもしれない」と、
互いに気づきあっていきました。

 誰にでも完璧なトイレはない。プロトタイプを作って一定の広さやボタンの位置を同じにして、あとは一人ひとりが少しずつ我慢すれば対応できると調査しながらわかってくる。すると、今まで行政について「けしからん!」と怒っていた人が行政のお金を使うことに意識がいくようになって、
「完璧なトイレづくりには1千万円かかるけれど、それは本当に必要なのか?」というところまで話しあえるようになっていった。
それはすごいことだと思いました。

「自分のことだけ」が変化していったのは、みんなで調査したり見てまわったからこその良い点ではないでしょうか。


◆住みやすいまちづくりをめざして

── ベンチのお話もお聞かせいただけますか?


 はい。社協に協力していただいて、サロン活動をしている数か所でアンケートをとらせていただきました。そこで「外に出たときに腰かけるところがあると助かる」という声をたくさんいただきました。
最初につくったのはCOSちとふな
ですが、私の自宅前(赤堤)にもつくっています。



── 何かこだわりをおもちですか?


 地域材を使うという視点から、東京の木・西多摩材のヒノキを使っています。



── 井上さんがデザインなさっているんですね。


 はい。デザインだけでなく、すぐに腰をあげることができない方もいるし、ちょっと腰かける程度がいいという方もいらっしゃるので、本当は色々な高さがあると良いのですが。予算や場所の関係もあってなかなか難しいです。



── 井上さんご自身がこのような活動にかかわったきっかけは?


 「みんな同じように、まちに住んでいる。みんな同じことができて当たり前なのに、しょうがいがあるから辛いことがあるのはおかしい」「みんなで気をつけたり、商店街のなかにトイレを増やしたり、誰かがちょっと頑張れば住みやすいまちになる」と思ったんですね。

いざとなれば「あのトイレ、あのベンチに行けばいい」と思えば、安心して外出できるじゃないですか。せめて自分が住むまちはそうあってほしいという想いがきっかけでした。
 

── ほかには相談、講演会など幅広く行なっていらっしゃいますが?


 会のメンバーと話しあっていると「これが必要」というものが自然に出てくるんですね。そうすると「じゃあ、それをやってみよう」と、多様な拡がりになっていきます。

 住宅相談では、『住まいのトラブルQ&A』(2000年)という本も出版しました。世田谷区内の3つのNPOに所属する一級建築士が区民サービスとして住宅相談を受けていますが、たまった事例をご相談前の“転ばぬ先の杖”としてお読みいただけるようにまとめたものです。

 ほかには2005年から、(財)世田谷トラストまちづくりの「地域共生のいえづくり支援事業」
に結びつく色々な事業のお手伝いをやらせていただいています。世田谷区長も現在、空き家・空室活用に力を入れていますが、私たちはオーナーのお申し出を待っているだけでなく、具体的に使いたい場所のイメージを持っている方のリストも必要だと考えています。



── 「SAHS」の皆さんにとって「ここはぜったいにはずせない」というものはありますか?

 

 「SAHS」の会員は現在約100名ですが、メンバーはそれぞれ専門家、まちづくりの活動家、学校の先生などです。そこで会員に来ていただいてその方の活動についてお聞きする 「ポトラックセミナー」を定期的に行なっています。どなたでも講師になるような活動と想いをおもちなんです。

 そのように熱心なメンバーですから、特に事前のリサーチやヒアリングを大事にしていますね。

 委託してくださる方は声の大きい方、小さい方さまざまですが、なるべく全員の合意をとりながら進めていく。過去に関わった例では、COS下北沢
、COSちとふななどですが、建物の中に複数の異業種が入っていると緊張関係が生じます。また、貸す側・借りる側の緊張関係もありますが、そこを転換させて「地域のためにいいことをやりたい」という一点で同じ方向だと気づいていただけるお手伝いをしたいですね。

「お互いに少しずつ我慢して一緒にやっていく」、そんな関係性をつくることが一番大切です。



── 大事にしていらっしゃるのは、地域の人間関係、関係性なのですね。


 そうです、そこが変わらないと。物だけつくっても変わらないですものね。



── 今後の課題や井上さんがやってみたいことはなんですか?


 住宅相談を受けていて思うのは、「人と人とのつながりが希薄になって、コミュニケーションを上手にとれない関係が増えている」ことです。具体的には近所やお隣さんとの問題を相談される方が多いのですが、人生相談のような趣もありますので、話の仕方や会話の流れなどもアドバイスさせていただいています。

 このような時代にあって若い世代がまちづくりを進めていくのは大変なことです。心から、若い方たちを応援していきたいですね。その一歩として、今まで活躍してきた方と若い方の懇談会(「今だから逢いたい! 世田谷まちづくりの先輩たち」(株)世田谷社
+SAHS共同企画。写真はSAHSホームページより)を2011年10月から月1回開催しています。


 今、みんなが「まちづくり」に行きづまりを感じているところがあるかもしれません。そんななか、少しでも住みやすいまちにするために、自分にできることをやっていきたいと思います。

(取材・文・写真 石黒眞貴子)