■スポーツ・レクリエーション事業を通じて“人を育てる”


野村 せたがや福祉区民学会 第10回大会」の基調講演で、世田谷区の事業のチラシを一部ご覧いただきましたが、「何をやります」とはっきり書いていないんです。つまり、チラシで募集の段階では何をやるかは決めていないのです。応募された方々にアセスメントをするために皆さんにお電話をさせていただいて、どんな状況かをお聞きして、その中からどんなものが適切かというプログラムを企画立案→提供して、「どうでしたか」という評価をいただく。「とてもよかった」、「楽しかった」ということはまたやるし、「あまり楽しくなかった」という評価なら次に内容を変えていくというふうに行いました。


現在、私どもの研究室が世田谷区から委託を受けている事業は「障がいがあるなしに関わらず共にスポーツ・レクリエーション活動を通じてお友達になりましょう、そしてその地域で楽しく活動していける仲間をつくりましょう」という事業ですが(世田谷区「障害のある人とない人も共に楽しめるスポーツ・レクリエーション交流事業」企画・運営・講師(2016年4月~))、これを視察された東京都の方が、「特別支援学校を開放して事業をするので委託を受けて欲しい」とおっしゃってくださいました。(*東京都は「都立学校活用促進モデル事業」の一環として、障がいのある方等に特別支援学校を会場としてプランを提供している)


私どもの研究室は江東区にある城東特別支援学校を会場としたプログラムを委託されたので、そこでも同じ方式で「障がいがあるなしに関わらず、城東特別支援学校の周辺にお住いの方々はぜひおいでください」と呼びかけて来ていただいています。(都立学校活用促進モデル事業(都立城東特別支援学校)企画・運営(2018年4月~))


世田谷区も江東区・城東も、参加者としておいでになっている方にいろんな経験を積まれている方がいらっしゃったら、その方に「スタッフとしていっしょにやりませんか?」とお声がけをさせていただいています。「やったことがなくてわからないので、参加者として来ました」ということであれば、その方向けのスタッフ養成講習会を行う、というように事業計画に組み入れています。



── 人材を育てていらっしゃるんですね。



野村 世田谷区や東京都の委託事業の城東特別支援学校では、スタッフを養成するための講習会と、そこで講習を受けた方々にスタッフとして参加していただいて、体験会を行うときに「地域の方々、どなたでも結構ですよ」、「障がいがある方・ない方、誰でもいいです」と、気軽にスタッフとして関わってもらう。そしてちょっとずつ、スキルを身につけていただいています。

実は、私は今年度で大学を定年退職するのですが、そのあと2年、再雇用で特任教授として残ります。ですから2年たったらいなくなると想定して、少しでも地域の方々自らで企画・運営ができるように「スタッフ育成のための講習会」をしているのです。


── 育成は、ご苦労もおありかと思いますが…。


野村 基調講演の発表でもご紹介させていただいたのですが、世田谷区の事業の参加者の中から、スタッフとして関わっておられた方々にグループをつくっていただきました。その方々には、独自に活動をするグループとして活動していただいています。「世田谷スポ・レクネット」と言います。


── それはすごいですね!


野村 はい。「世田谷スポ・レクネット」の皆さんは世田谷で事業をやるときのスタッフとして関わってくださっているし、自主的にボッチャの大会を開いたりしています。これは一つのモデルケースです。誰でもできるということではないので、「やってみませんか」と人をみてお声がけしなくてはいけないですが、その地域で中心になってくださる方はいらっしゃいます。いつまでも行政主導でやっていたら限界があるので、行政としては補助する、サポートする、後方支援をする。だけどやるのはNPOだったり有志であったり、そういう方々が本当に身近な地域で活動してくださるといい。「世田谷区全域をカバーする」と考えると範囲が広くなってしまうので、地域、地域でやっていただければいいなと思っています。ある意味、私たちが関わることができるのは期限がありますが、引き続きやっていただけるように工夫しているところです。


── 第2、第3の「世田谷スポ・レクネット」が生まれると良いですね。



■地域貢献を通じて知る「お互い様」


野村 私の専門と「福祉」の関係についてお話しいたします。私はレジャー・レクリエーション学セラピューティック・レクリエーション専攻をバックボーンとしてもちながら、プログラムとしてはできるだけ体を動かしていただくようなプログラムを中心に、日本体育大学の特性を活かしたほうがいいと考えています。


ふだん体を動かすことがない、どうやって動かしたらいいかわからないという方に「こんな簡単なことでいいですよ」とすすめていく。それは皆さんが「運動」と思わないレベルでも良いのです。「十分体を動かしているし、そのレベルでいいですよ」、「無理はしなくていいですよ。楽しかったらまたやればいいし、いやだったらやめればいいですよ」というスタンスで関わっています。


「福祉」には狭い領域と広い領域があるけれど、広い領域でいったら、まさに「人生、いかに楽しめるか」ということだと思っています。そのための様々な制度、人材があると思っている。狭い領域でも、高齢者福祉、障がい者福祉、児童福祉という領域でなく、「誰もが一回だけの人生を、様々なことを通じて楽しく」するか。いかにそれを感じていただけるかということだと思っています。


それぞれの分野に、専門領域の方々がいらっしゃいます。ですから私は、その「ハブ」になりたいと思います。まさにTRとして、いろんな方々に関わっていきたい。たとえば「私はバレーボール専門の指導者です」とおっしゃっている方がいたとします。でもスポーツの指導者ならばバレーボールだけじゃなくて、ほかのスポーツの指導もできるようにすれば幅が広がるでしょう。しかも初心者指導が一番難しいということはみんながわかることで、やったことがない人に楽しくやれるようにすることが一番大事なのです。「それができない指導者は、スポーツの指導者として失格です」と学生たちに言っていますが、「体を動かすことは楽しくて重要なこと」というのを広めたいです。まず、最初の入り口のところが大事で、それがうまくはまればその人にとって「楽しい人生」が広がる。「こんなに楽しいことなら、もっと早くやっていればよかった」と思っていただければ嬉しいのです。


多様な経験や体験を通じて、「これさえあれば私は生きていける」というものをもっていただきたいです。


── ありがとうございます。運動、体を動かすことはハードルが高いものではない、「自分なりに」で良いのですね。
大学と地域との連携、福祉との関連はいかがでしょうか?


野村 大学は、以前は教育と研究をやっていればよかったんです。いまの大学は「教育」と「研究」と「地域貢献」が三本柱です。地域貢献をやっていない大学は、認められなくなっています。大学は7年に1回認証評価を受けなくてはならないのですが、それに通らないと助成金が交付されないのです。ですから、どの大学でも地域貢献をやるようになっていますね。

本学の場合も「社会貢献推進機構」という窓口=セクションをつくっています。いろんなところから「講師を派遣してほしい」、「クラブの人たちの大会があるから手伝ってほしい」、「体操指導をしてほしい」、「子どもたちの運動指導で専門家を派遣してほしい」と要請があります。大学として責任をもって派遣をしたり、あるいは大学の施設を開放する。夕方になるとラグビーやサッカーをやっている子どもたちが来て、大学生といっしょに動いていますが、これも「地域社会貢献」です。

そういう意味では、地域住民への貢献活動に関わっている学生たちは、大学の勉強や部活と異なるので楽しんでいるようです。ボランティア登録をしている学生に、「こういう依頼があるよ」とメールが届く。「やってみたい」と手を挙げた学生が依頼者のところに連絡をして、「やってみたい」と言ったあとはお任せです。大学側は、「うまくいかなくなったらやめていい。もし相談があったらいつでも相談を受ける」というスタンスでいるので、何かトラブルがあった場合は大学が仲介役に入ります。

この機構を立ち上げるとき、大学全体として過去にご依頼を受けた案件を振り返ってみたら、ものすごい量をお受けしているとわかりました。ただそれが「地域社会貢献」という意味合いではなかったんですね。単に外部講師とか、卒業生が中学校や高校の教員になって「コーチがほしいので、誰か学生を出してください」と頼まれて出していたという個人的なつながりでした。

ところが、いざ大学がまとめると「相当やっているぞ」と。日体大はスポーツだけではなくて、肥満対策のための講習会などニーズが多いので、評価もきちんと受けています。私どもの研究室でも委託事業として予算をいただいて、予算の中で行う部分もあるし、ボランティアとしてゼミ生と一緒に行く部分もあります。


 ◆スポーツライフマネジメント学科の特徴
(日本体育大学ホームページより)

1.地域の健康増進を支援
2.コミュニティの形成
3.健康スポーツを牽引



── 今日もお話をうかがわせていただいて、私たちが知らないことを教えていただいています。まさに、社会貢献、地域貢献ですね。


野村 日体大は東京都、世田谷区と包括協定を結んでいますので、様々なお仕事を手伝わせていただいています。


── 「そとでる」の運営母体である「せたがや移動ケア」には「おでかけサポーターズ」というボランティアグループもあり、活発に活動してくださっています。たとえば、日帰りで上野に行ったり両国に行ったりなど「おでかけ支援」がありますが、過去に何回か大学生がボランティア参加してくださったことがありました。そのとき、「いろんな世代や立場の方がいっしょに話したり、活動するのは良いな」とシンプルに感じたのを思い出しました。

将来的に、日体大の学生の皆さんといっしょにできることがあればと思いますし、日頃、体を鍛え、整えていらっしゃる学生さんたちとの交流は、ご利用者さんたちにとって良い刺激になるのではと思います。


野村 日体大の学生は基礎体力があるので、動けと言えば動きます(笑)。体育学部体育学科は運動部に所属している学生が多いですから、「やれ」と言えばやりますし、集団で行動できるんですよ。運動部に入っていれば寮や合宿所生活の割合が多いですから、指示命令系統がはっきりしている。日体大の学生は、臨機応変にやることを日常的にトレーニングしているので的確に動く。運動会とかに呼ばれると喜ばれていますね。

また、パラアスリートも入学していますので、障がいのある学生もいるし、児童スポーツ教育学部という、幼稚園教諭、保育士、小学校の先生を目指す学部があるのですが、幼保ですから小さい子どもさんの扱いに慣れています。体育学部体育学科でも、小学校教諭と特別支援学校教諭の免許が取れるようにもなっています。


── 頼もしいですね。災害時における地域での連携活動などは想定されていますか?


野村 大学自体が区の避難所に指定されています。横浜・健志台キャンパスには保健医療学部があるのですが、そこは救急救命士の養成と柔道整復師の養成を行っています。救急医療学科では災害医学や救急車同乗実習などを導入していますから、本当に現場で救急救命ができる人材、国家試験に受かる人材を育てようということです。

ライフセービング部の学生などは、海上保安庁のいわゆる「海猿」になりたくて入部した学生もいますが、夏休みになると各学生が決められた海岸に配置されてライフセーバーとして従事しています。現場で実際に活動しますので、意識としては何かあって地域の方が困られているときにも動くことができるでしょう。もちろん、我々の使命は、学生自体の安全を確保することなので、まずそれをやりますが。
自分たちがまず安全で、家族が安全でということがあれば、「地域の方のために何か…」と考えている学生は多いと思います。


── 実は私どもも、世田谷区と警察と連携して、「災害時には移動困難な方を運びましょう」とつめていきつつあります。



野村 そうでしたか。たとえば東日本大震災のときには大学としてバスを用意して、学生を連れて何度も行きました。教員ごとに地域を割り当てたのですが、私は岩手県担当で、ほかの先生は福島、宮城と分かれてそれぞれ学生を連れて行きました。
そのとき、学生たちが一般の方では運べないものを束になって運んでいた。そういうことで喜んでいただいたら、学生たちは嬉しいですよね。それだけでなく、逆に元気づけられる。「普段何をやっているの」と聞かれて、「こういうスポーツや活動をやっています」と言うと、「頑張りなさいよ」と逆に励まされたりしていました。


── 私たちもご利用者から「ありがとう」と言われた時が、日々、嬉しいですね。もっとも、お金を頂戴しているのに「ありがとう」と言っていただけるとちょっと申し訳ないのですが。


野村 人間として心が通うというか、「お互い様だよね」というところが大事だと思うんです。ふだんから学生は支援を受けて学生生活を過ごしていて、なかなか「お互い様」というのをもてないでいます。でも自分が何かをしてそうやって何か言っていただくと、「いろんな方に支えられている」と感じると思うんですよ。地域の方に喜んでいただけるようなことをひとりの学生がして、それをほかの学生も見習ってほしいなと思います。



共有したい、“「レクリエーション基本法」をつくる!”


── それでは、最後に先生から「メッセージ」と「夢」をお聞かせください。


野村 先ほど申しましたように、私はハブのような役割でいたいと思っていますし、できるだけそういうことを心がけています。ですから「そとでる」の皆様がやられていることも非常に共感できるというか、共通するものがあります。


以前ご登場された方々のインタビュー(「ウィラブ世田谷」)にもありましたが、「そとでる」がやられているようなことがなかなか全国的な状況にならないのはもどかしいですね。大学で「障がいのある方もない方もいっしょに」と言う以上は、障がいというのはどういうことかを最低限知っていなければだめだと思います。「誰でも」というわけにはいかないですが、全国に700も大学があって、社会貢献の流れがある中、障がいのある方だけが対象ということではなく、「地域にはいろんな方がいらっしゃる」ことを前提にする意識でいたいです。
大学の教員がそれぞれの専門性を生かせば、いろんなプログラムが組めると思います。

また、「福祉区民学会」のような学会とも、一教員、一研究室がつながりを持っているだけでなくて、(場所的には世田谷区になりますけれど)横浜キャンパスにある学部も含めてつながりがもてるような広がりができたらいいと思います。



── ぜひ「そとでる」も、つながりを持たせていただけたらと思います。あと、日本にもTRという存在の方がいらしたら…と思いました。


野村 私の後輩が調べてくれた時点(2014年)で日本に帰ってきてCTRSとして活動をしているのは10名でした。日本ではほかの職名で入ってTRの仕事をやるんだけれども、PTもドクターも認めたがらないですね。「地域連携」でないと意味がないので施設外の地域とやろうとすると、施設長からストップがかかったり。ですから、日本人の有資格者であっても海外で活躍される方が多いです。


── 残念ですね。


野村 10名いらっしゃるうち非常勤講師も含めて大学の教員が5名、病院でリハビリテーションに関わっているのが2名、福祉施設職員が2名、野外活動施設のディレクターが1名なので、大学でそういうことを少しでも伝えたいと思っています。

それから私の「夢」ですが、一番の夢は「レクリエーション基本法」をつくりたいですね。「レクリエーションは、人間の権利としてある」ということ。それは、誰にも権利として保障されなくてはいけないし、そのために「国は必要な施策を講じなければならない」という基本法をつくりたいです。


── 大切な権利ですね。


野村 「障害者基本法」には「レクリエーション」という言葉がいっぱい出てくるじゃないですか。それでもだめなんですから。私は、国民全員を対象にしたいと思います。
「日本国憲法第25条、すべての国民は健康で文化的な豊かな生活を営む権利を有する」と書いてあるのです。そのための「レクリエーション基本法」です。
 けれど、これは総理大臣にならないと無理かな(笑)。そういう「夢」を、ひとりでも多くの人と共有したいですね。


── ひとりでも多くの人との共有、地域で活躍する方の育成が発展しますことを私たちも願います。今日はご多忙のなか、長時間、ありがとうございました。


◆お話をうかがって
野村先生、
過日はご多忙中、またコロナウイルス拡大中にも関わらずお話をいただきましてありがとうございました。
先生のご専門である「セラピューテック・レクリエーション」(一人ひとりがいかに楽しい人生を送るか支援すること)、
初めて耳にする言葉でしたが、わかりやすくご説明いただきありがとうございました。
私たち移動支援事業者や「そとでる」としてもご利用者様のそれぞれのニーズにあわせて支援の一端を担っていきたいと思います。
また先生の夢、「レクリエーション基本法」が実現するよう応援したいと思います。
久米 譲二(赤堤介護タクシー、NPO法人せたがや移動ケア・理事))

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*このインタビューは2020年3月に行いました。

取材・構成・文章:石黒 眞貴子
(「世田谷区福祉移動支援センター・そとでる」スタッフ)
撮影:梶山 淳子(フリーカメラマン)