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ひらめき 第39回 リハ工学カンファレンス in東京② 市民公開講座

第39回 リハ工学カンファレンスの最終日(8月10日(日))、市民公開講座「くらしの足の未来をデザインする─病院や買い物に行く手段がなくなる日がくる?」が開催されました。(参加:約100名)
同講座のパネリストのひとりとして、「そとでる」鬼塚センター長が登壇させていただきましたので、報告いたします。(カンファレンスの記事①はこちら

毎年、「そとでる」が協力・参加している「くらしの足をみんなで考える全国フォーラム」顧問の鎌田 実氏(東大名誉教授)が基調講演を行い、事務局長の清水 弘子氏(NPO法人かながわ福祉移動ネット理事長)がパネリストとして登壇。
他に、民間救急事業者の羽根田 孝氏(介護タクシー ケアリング代表)が、赤羽台キャンパスがある北区の事業者として話されました。

 

■市民公開講座「くらしの足の未来をデザインする─病院や買い物に行く手段がなくなる日がくる?」(以下は同会HPより)
体力の低下により交通手段が確保できなくなることは、誰にとっても身近な問題です。さらに近年、バスやタクシーの運転手不足も深刻化し、公共交通の維持にも問題が生じています。このような「交通の空白」をどのように解消し、誰もが安心して買い物や通院ができる地域を維持していくのか、このディスカッションでは、専門家や福祉有償運送事業者らを交えて、未来のくらしの足を確保するヒントを皆さんと一緒に探ります。

■基調講演
「くらしの足のいま」 鎌田 実氏(東京大学名誉教授)

■パネルディスカッション
「くらしの足をみんなで考える」
パネリスト:
鎌田 実氏(東京大学名誉教授)
清水 弘子氏(かながわ福祉移動サービスネットワーク 理事長)
鬼塚 正徳氏(「そとでる」センター長)
羽根田 孝氏(北区 福祉介護タクシー ケアリング 代表)

■日時:8月10日(日)13:30-15:00

■場所:東洋大学赤羽台キャンパス WELLB-HUB2

◆基調講演
鎌田氏は、地域交通や地域の街づくりに興味を持って東大で30年間、研究を続けていらしたという自己紹介の後、「東京ではあまり感じないかもしれないが、都営バスが毎年減便している」と話されました。続いてデマンド交通の複数の事例紹介、国交省で取り組んでいるさまざまなキーワード(地域公共交通のリデザイン、交通空白、日本版ライドシェア、自動運転等)について、スライドを用いながら話されました。

また、著書『移動困窮社会にならないために』を紹介し、今後課題となるマイカーの維持費や自由に移動できなくなる恐れがある社会を「移動困窮社会」と名付けたことなどを話されました。
そして講演に続くパネルディスカッションでは、福祉有償運送、福祉的な側面、介護タクシーの話、移動困難の中で「足の覚悟がどうなっているか」を議論していきたいと結ばれました。


◆パネルディスカッション

まず鎌田氏が、「どういう将来像を描いていくか、移動手段だけではなく街づくり全体を考える必要がある」と問題提起されました。そして「特に地方では加速が進み、人口ゼロという集落も出てくる。人口がある程度減っても持続可能な将来像を描いておきたいし、一方 大都市では人口が減少傾向と言ってもまだまだ数は多い。団塊の世代の人が高齢者後期高齢者になった時にどういう手段で動けるのか、大きな意味での街づくりを考える必要がある」と続けました。
さらに「行政、交通事業者に任せておけばいいのか。住民の側も力を合わせてどう貢献ができるか?」と投げかけました。

続いて、パネリストが一人ずつ話題提供を行いました。はじめにNPO法人かながわ福祉移動サービスネットワークの清水氏が話されました。
清水氏は、25年前から活動を始めた市民活動の現場、福祉有償運送の話、全国で 2,500とも3,000とも言われる高齢者障害者の外出支援について述べました。
そして、福祉有償運送:移動サービスについて説明。通院、日常の買い物、お出かけが可能であること。「介助したり、一緒にお買い物を楽しむということも移動サービス」と話されました。他にも、社会参加を助ける意味合いから行っているさまざまな事例を紹介した後、移動困難の解消のための取り組みについて紹介。「地域で支え合うくらしの足」として市民主体で作り上げたお出かけの取り組みは映像でも紹介され、会場で視聴している方々から多くの反応がありました。

 

2人目のパネリストとして、「そとでる」せたがや移動ケアの鬼塚が登壇。自己紹介として、50年前に世田谷区梅ヶ丘にある特別支援学校の卒業生たちと一緒に移動支援を始めた話をしました。続けて、移動サービスについて「福祉有償運転者講習会」で使用する資料を用いて説明。福祉輸送について会場の皆様に知っていただくために法律や行っていること、一般タクシーとの違い等を述べました。さらに、世田谷区福祉移動支援センター「そとでる」について紹介し、介護タクシー、NPOなど150の事業者、団体が登録していること。その仕組みについて写真を用いて説明しました。

次に登録していただいているご利用者について説明し、「そとでる」10年間の活動の中で約1万人いらっしゃること。1年間に約1,000人ずつ登録者が増えていることを世田谷区民92万人という数字や高齢化とからめて分析。ご利用者の年齢層、利用目的、利用回数等をアンケート結果と写真をもとに説明しました。そして、「駅やバス停までの500m、200mを歩けない人たちのためにどのような交通政策があるか。ご利用される方々の目的や行き先をどう把握して制度化するかを皆さんと一緒に考えていきたい」、「外出して、人と話して、からだを動かすことができる社会。そのような社会を共生社会の中でつくりたい」と結びました。

最後に、北区で民間救急を行っている福祉介護タクシー ケアリングの羽根田氏が登壇されました。羽根田氏は「介護タクシー現場の立場と現状の課題」を話され、「介護タクシー利用者は幅広く、車いすを利用するお子さんからご高齢の年配の方までいらっしゃる」こと。予約制で一般のタクシーと違い、料金と使用方法など多く異なる部分があること等を説明。問題点として、料金価格についてあげました。また具体的な介助方法や、機材の説明(車いすリクライニング、車いすストレッチャー等)をわかりやすく説明されました。他にはご利用する時間帯等、会場にいらっしゃる方々が実際にご利用される際を意識して話されました。最後に問題点として、「国と病院、地域、包括、ケアマネなどが連携して必要な人が必要な時にご利用できる仕組み。福祉車両。料金補助。助成金等、一般の利用者と介護タクシーのネットワークを充実させることができれば」と述べました。そして、「介護タクシーはありがたく思っていただける仕事。若い世代から認知してもらい、現状を変えていけることが理想的」と結ばれました。

この後、鎌田氏が進行役となって、パネルディスカッションを行いました。鎌田氏はふりかえりとして、「私はデマンド交通の話をしましたが、そこでカバーできる人は限られていて移動困難な方はたくさんいらっしゃる。3人の方からは、それぞれ日々取り組んでおられることをうかがいました」と話され、「鬼塚さんの話にあったように、これからは高齢者、特に移動困難な方が増えていく。その中で、どうやってお出かけの足を確保していくのかが大きな課題」と述べられました。

続いて清水氏が「いま、国は交通空白解消のため、官民連携プラットフォームで繋げてアプリを使って利便性を上げようという方向。その時の交通空白とは一体何だろう?」と問題提起。続けて「私たちはいつも移動困難な方、特に外出する時に誰かの助けが必要な方と一緒にいる。ボランティアの延長線上で福祉有償運送を頑張っているが、私は階段介助が難しくなってきた。まだまだ地域では色々な交通移動困難があるのに、私たちのできないことが少しずつ増えていくと、移動困難な方の外出する機会がなくなってしまうのでは? と思っている」と述べました。そして「共助や、有償運送、それを支える自治体がうまく噛み合うようになると良いと思う」と話されました。

次に、「そとでる」の鬼塚センター長が、「50年前に運転を始めた頃はバリアだらけだった。いま、社会・時代は少しずつ変わっていったと感じている」と述べました。そして、「あとは皆さんの力。社会問題に対して力を貸してもらう。くらしの足をみんなで考える全国フォーラムや、今回参加させていただいたカンファレンスのように、研究者たちが考えること、地方、東京の現場で解決策を生み出していくこと、そこから新しいことをやっていく」、「いま、チャレンジできる状況が生まれてきた。皆さんも身の回りに動けない人などいたときに、自分のできることを仲間と考えれば、色々なことができていくと思う」と期待を込めました。

3人目の羽根田氏は、「介護タクシーは、患者、利用者様、お客様の命を預かって特殊車両・特殊機材で搬送する職業。そのため、介護タクシーは高いと思われるかもしれないが、正当な料金になっているはず。もし使う機会があったら、納得いくまで介護タクシー会社に聞いてください」と発言。また、「今日の話を聞いて、皆さんが少しでも介護タクシーに興味を持って『やりたい』と思ったら、いつでも声をかけてください。僕が責任を持って教えますし、応援します」と熱く呼びかけました。

最後に、進行役の鎌田氏がパネリストの皆さんのお話をふりかえり、「今日はお出かけの足が今後どうなるか。いま、こんな状況であるというのを少しご理解いただけたと思う」と述べられ、「利用したい人の数、最低限の移動だけではなくて、週に何回もお出かけできるようにするためには、もっとサービスの供給側が頑張らないといけない。それを公共交通側とタクシー・NPO・介護タクシー・限定等で、うまく重ねて広げていくことが今後の日本にとって非常に大事。
お聞きになった皆さんも3人のパネリストの話を持ち帰って、自分では何ができるのかを少し考えていただけると嬉しい」と結ばれ、登壇された皆様に会場に集った約100名の方々から大きな拍手がおくられました。

 グループ「くらしの足をみんなで考える全国フォーラム2025」では、都市部の交通空白の話題を取り上げ、上記の市民公開講座の延長戦のような熱いやりとりが予想されます! ぜひご参加ください。

第40回リハ工学カンファレンスin神戸は、「リハ工学のこれまでとこれから─支える技術、つなぐ想い、紡ぐくらし」をテーマに、2026年8月21日(金)~23日(日) 神戸学院大学 ポートアイランドキャンパスで開催予定です。

(スタッフ・石黒)